29日、都内のホテルで行われるプロ野球新人選択会議(ドラフト会議)で、史上最多9球団の指名競合が予想される花巻東(岩手)の155キロ左腕、菊池雄星投手(3年)が28日、改めて12球団OKを表明した。この日、花巻市内の同校で取材に応じ「特に行きたいという球団はない」と明言。10月からつけ始めた野球日記「雄星ノート」の表紙には、早くも「2010年

 新人王」とプロ入り後の目標を記していることも判明した。セ、パのクライマックスシリーズ(CS)は全戦チェック。楽天田中、レギュラーシーズン中の日本ハム・ダルビッシュらの投球でプロの「予習」も始めている。

 報道陣の前に立った菊池の表情は晴れやかだった。いよいよ翌日に迫ったドラフト。だが怪腕の顔に緊張感はない。「楽しみな気持ちの方が大きいですね。早く明日にならないかなという感じです」。希望進路を日本球界に定めた今、運命の日を迎える。「どこの球団でも、投げることは変わらない。特に行きたいという球団もないですし、ユニホームで野球をするわけじゃない。指名された球団でベストを尽くすだけです」と気持ちは晴れやかだった。

 あこがれのプロの世界に向けて、すでに“始動”している。高校生活で最後の舞台となった9月末の新潟国体を終えると、1冊の大学ノートを購入。これまでも野球日誌をつけていたが、ひと区切り。今月に入ってから中身をバージョンアップしたプロ仕様のノートに様変わり。カラフルな蛍光ペンで年末までの練習メニューに加え、「努力あるのみ」などと、自らを鼓舞する言葉も書き込んだ。そして表紙には、堂々と「2010年

 新人王」と書き記した。当時はメジャー挑戦に気持ちが揺れていた時期だったが、日米いずれにしても1年目から結果を残すための準備だった。

 球界を代表する好投手からの吸収にも取り組んでいる。25日に進路を国内と表明してから、セ・パのCSを毎日テレビ観戦するだけでなく、ビデオに録画。「どうすれば抑えられるかとか、(プロ野球を見る)目線が変わりました」と手本にしている。特に楽天田中や、以前から親交のあるヤクルト由規の投球にはくぎ付けとなった。日本ハム・ダルビッシュについても昨季のCS、今季のVTRを見返した。

 この日は授業を終えると、取材が始まるまでのわずかな時間も無駄にしまいと、ジャージー姿でランニングやストレッチで軽く体を動かした。同校ではインフルエンザが流行し、寮生も半数以上の部員が実家で休養しているが、黙々と自主トレーニングの日々を送る。20日に日米20球団との面接を終えた。30分の話し合いのために来日してくれたメジャー関係者への思いから、涙ながらに国内への進路を表明したのは3日前の25日。「決断してスッキリしたので、たくさん眠れています。しっかり洗顔してますし、ニキビも回復しています」と、悩みは吹っ切れた。

 89年野茂(新日鉄堺)、90年小池(亜大)の8球団競合を上回る、史上最多9球団による大争奪戦になると予想される。会議は午後4時開始。クジの瞬間は佐々木洋監督(34)と両親と4人で、報道陣とは別の一室で見届けた後、会見場に姿を見せる。「どのユニホームが似合うか親友と話してますよ」と、高校生らしい一面をのぞかせた。世紀の瞬間は、日本だけでなく世界も注目する。【由本裕貴】