プロ野球ドラフト会議が29日東京都内のホテルで行われ、花巻東(岩手)の155キロ左腕、菊池雄星投手(3年)は、6球団の競合の末に西武が交渉権を獲得した。菊池は岩手・花巻市内で会見し「埼玉でがんばります」と西武入りを明言した。去就で日米を騒がせた怪物左腕の舞台は、いよいよプロに移る。「語り継がれるような、愛される選手になりたい」と大きな目標を掲げた。近く「レオの雄星」が誕生する。

 運命の瞬間がやって来た。菊池は両親らとともに校長室でテレビを見つめる。午後4時16分。競合した6球団のうち、西武渡辺監督が右手で高々とガッツポーズをつくると、菊池は静かに笑みを浮かべた。約30分後、引き締まった表情で会見場に現れた。

 「やっとスタートラインに立てたので、ホッとしています」。笑みを浮かべながら、プロ野球選手という夢がかなった心境を話し始めた。

 菊池

 (西武には)素晴らしい投手もたくさんいるし、尊敬する投手もいる。岩手を離れることになるけど、地元にいい報告ができるように、埼玉で頑張ります。

 きっぱりと、西武入りを表明した。昨季日本一のレオ軍団。今季は4位だったが、投手王国の系譜を持つ。甲子園優勝から新人王、日本一、メジャーへとステップアップしたレッドソックス松坂もいた。若き最多勝エース涌井もいる。

 なかでも菊池が反応したのは、横浜を戦力外となり、西武入団が確実な工藤の話題が出たときだ。

 「一番尊敬する投手なので、もし一緒にできるなら、たくさんのことを聞きたい。少しでも工藤さんに近づける投手になりたい」。

 同じ左腕の大投手。46歳と18歳。28歳差ながら、著書を読むほどあこがれている。西武に入れば、生きた手本が目の前にいる。将来的な夢はメジャーリーガーだが、まずは日本一の投手になることしか頭にない。

 「語り継がれるような愛される選手になりたい。1日も早く戦力になれるように全力で頑張りたい」と言い切った。

 好奇心旺盛なのは少年時代から変わらない。小学校に入る前、家族で行った岩手・小岩井農場(滝沢村)では両親が止めるのも振り切ってヒツジを追い掛け、陸前高田市の海水浴場では貝殻探しに夢中になって、迷子になったこともある。目立ちたがり屋で、他人ができないようなことには何にでも挑戦した。だからこそ、卒業後のメジャー挑戦も本気で考えた。「進路のことで、たくさんの方に迷惑かけて申し訳ない」。両親は「好きにしていい」と本人の意思を尊重してくれたが、その家族を心配させたくないという思いもあり、国内への道を決めた。

 会見後には、あいさつに訪れた西武水沢担当スカウトに早くも体のケアの方法を質問するなど、高い意識を見せた。

 菊池

 今までは花巻東の菊池雄星だったけど、これからは菊池雄星という1人の人間として責任を持ってやっていきたい。

 近く「西武菊池」が誕生する。高校野球界、そして世界を騒がせた怪物の新しい物語が始まる。【由本裕貴】