いよいよプロ野球のドラフト会議が25日に迫った。理工学部に在籍する秀才ながらドラフト1位候補に挙がる慶大・福谷浩司投手(4年=愛知・横須賀)にスポットを当てた。

 運命のドラフトまであと2日。さぞ頭の中はそれでいっぱいかと思ったら、慶大・福谷は違った。「卒論を(12月に研究)学会に出すことになって、今学校が忙しいんですよ」。理工学部電子工学科所属の異色右腕は、日々研究にいそしんでいた。論文テーマは「野球に混在する曖昧さの定量化」から「投球動作における球の出所の見づらさの定量化」と学会仕様に変更。自分の投球をハイスピードカメラで撮り、データ通りの数値が出るか実験したりする…らしい。

 学部の優秀者に与えられる「藤原賞」も受賞した、ザ・インテリ。「プロでも暇つぶしで勉強は続けたい」と言ってのける一方で、“秀才キャラ”を嫌う。「これから目指すプロは、野球の成績だけで戦うところ。文武両道とかじゃないですから」。中日が単独指名する可能性もある、れっきとしたドラフト1位候補だ。実力で評価されることにこだわりを持つ。

 だからこそ、この1年は苦しんだ。3月のキャンプ中に右足内転筋を肉離れ。完治したと思ったら、秋は開幕戦で左足首を負傷した。22年間でたった2度のけが。でもそれが、人生で一番大事な年に重なった。「そんなヤワな体だったのかと情けなかった。ベンチでテーピングしながら監督に『代わるか?』って聞かれたとき、正直終わったな、と思いました」。

 今秋、先発は1度もできなかった。それでも、ストッパーとして不動の地位を築いた。規定投球回数にはわずかに足りないが、防御率0・47はリーグ1位の法大・三嶋をもしのぐ。「やるだけやって」、精いっぱいの復活を遂げた。

 そんな福谷、プロ志望届を出したのは2度目。4年前にも“記念受験”した。「あの時とは、全然気持ちが違いますよ。もうエントリーシートを出して、最終面接もやった。僕の中の就職活動は、終わったんです」。もうすぐ手にする内定通知を、155キロ右腕は心待ちにしている。【鎌田良美】

 ◆福谷浩司(ふくたに・こうじ)1991年(平3)1月9日、愛知県知多市出身。北巽ユニオンズで野球を始め、中学時代は名古屋緑シャークス(ボーイズ)で主に遊撃手。横須賀高ではエースで4番。3年夏の東愛知大会は初戦敗退。甲子園経験なし。AO入試で慶大理工学部に進み、1年秋にデビュー。3年春は抑えで12試合に登板し、春連覇に貢献。最優秀防御率(0・59)も獲得。直球155キロは東京6大学リーグ最速タイ。183センチ、90キロ。右投げ右打ち。