若手よ、自分の力で正捕手を奪ってみろ!

 阪神矢野輝弘捕手(40)が“兼任コーチ”を拒否した。22日に兵庫県西宮市の球団事務所で契約交渉に臨み、1000万円増の年俸2億円で一発更改。野口のFA移籍により、2番手捕手が不在となるが、若手の育成には関知しないことを明言した。あえて冷徹に振る舞い、自力での成長を促す意図がある。(金額は推定)

 チームでも随一の好感度が下がりかねない言動だった。それでも矢野は意を決したように口を開いた。「僕が育てるのは、おかしいと思う。自分で見て学んでほしい気持ちが強い」。来季でプロ19年目。周囲から自らの後継者育成を期待する声は大きい。この日の契約交渉でも若手投手の話題になった。正式な肩書はなくとも“兼任コーチ”の役割が求められる。しかしきっぱりと断った。

 本来は面倒見が良く、チーム内でも人望がある。今オフには野口が横浜にFA移籍。2番手捕手が不在となり、若手の育成は急務だ。ベテランの目線から指導があってもおかしくないが、矢野は安易にアドバイスを与える考えはなかった。「自分の経験でもそうだが、教えられたことは身につかない。すぐに忘れる。自分で苦労して考えて、身につくもの。後輩には冷たいと思われるかもしれないけど、その方がタメになる」。どうすれば、レギュラーを追い越させるか。自問自答を繰り返してこそ、本物の力がつく。41歳を迎える09年はあえて「冷徹」をキーワードに選んだ。

 現役に対する強烈なこだわりの裏返しでもある。「ある意味、ここまでよくやれたと思う。でも、もっとがんばりたい。(若手の)ライバルというのはある。かなわないと思わせられたら…」。依然として、正捕手の座は揺るがないが、その地位に安住する気持ちはない。「(全試合に)出たいよね。それなら(2番手は)いらんもんね」。04年以来の全試合出場への願望はまだ持っている。ポジションを奪ってみろ-、というメッセージを発信した。

 今オフには、右ヒジのクリーニング手術を行った。これも長く現役を続けるためだ。腕が完全には曲がらない状態だが、懸命にリハビリしている。トレーナーに止められながらも、柔らかいボールを5メートル程度投げた。「地味なメニューが多いけど、早く何でもできるようにね。キャンプが始まるまでに投げられるようにと思っている」。年末年始も無休で練習に励む予定。年俸も2億円の大台に再び乗せて、一発更改。「アラフォー」の心意気はまだまだ若かった。【田口真一郎】