世界レベルの怖さを痛感した。12月16日に島津アリーナ京都で行われたWBO世界バンタム級指名挑戦者決定戦。「京都から世界へ」を合言葉に臨んだ同級1位大森将平(22=ウォズ)は、同級2位マーロン・タパレス(23=フィリピン)に無残な2回TKO負けを喫した。

 1回20秒過ぎ。いきなり左オーバーハンドを食らって手を着き、プロ16戦目で初のダウンを奪われると、同1分過ぎには右ストレートを当てられ尻もちをついた。続いて1分40秒過ぎにも倒され、1回だけでまさかの3度のダウン。完全にリズムを失った大森は、2回にも右をもらってダウン。その後に、レフェリーに試合を止められた。

 母校南京都高(現京都広学館)の先輩でWBC同級王者山中慎介が「神の左」なら、大森は「魔の左」と呼ばれる強力な左ストレートが武器。だが、その必殺パンチを繰り出すこともできず、世界挑戦への道は遠のいてしまった。

 「最初のダウンがすべて。思ったより効いていた。地に足が着いていなかった。最初ジャブが良く当たったので、調子に乗って打っていってしまった。大きいのを振ってくるのは、分かってたんですが…」。試合後の控室、取材に対応した大森はいつものように落ち着いて、口数も多かった。顔には、大きな傷もない。とても4度ダウンを喫した敗者とは思えなかったが、完敗は完敗。その様子に、大森の勝利を予想していた記者は、あらためてボクシングの恐ろしさを感じた。

 末期の前立腺がんを患う祖父国和さん(82)に、勝利を届けることはできなかった。試合当日、家を出る時に祖母末子さん(77)から背中をバシッとたたかれて送り出される“無敗の儀式”も、今回は結果につながらなかった。だが、まだ22歳。プロ初黒星を、反転攻勢へのエネルギーに替えなければいけないし、その時間も、力も十分ある。

 「世界ランクは落ちるでしょうね。まあ、ここまでは運が良かったのかもしれない。長谷川(穂積)さんも言ってましたが、1度苦しい思いを知ったんで、また次に生かせると思います。今後に生かせるための試合と、受け止めます」。15戦全勝10KOの華々しいキャリアに傷はついたが、この試練を乗り越えた時は、きっと夢の世界王者に近づいていることだろう。たくましく、強くなって、また京都のリングに戻ってきてほしい。【木村有三】