WBC世界ミドル級7位村田諒太(29=帝拳)が、初の世界ランカー戦を豪快なTKO勝利で飾った。WBO世界同級15位ドウグラス・ダミアン・アタイジ(ブラジル)と対戦。5回開始直後に右ストレートを顎に決めてダウンを奪うと、その後も連打で2度目のダウンを奪い、同回38秒に勝利した。陣営は今後、本格的な海外進出をスタートさせる方針で、次戦は8月に米国となる見込み。重要な一戦に勝利し、「世界」を目指した大きな1歩を踏み出した。戦績は7勝(5KO)無敗となった。

 日本では異例ともいえるミドル級の世界ランカー対決。24歳のアタイジとのリスクの高い試合で、村田がその拳の威力を見せつけた。5回、ゴングと同時に圧力をかけると、それまでより半歩遠い距離から強烈な右ストレート。顎を打ち抜きダウンを奪うと、獲物を見つけた獣のような目で再開を待った。続けざまに、強引な6連打。最後は再びの右で試合を終わらせた。

 3戦ぶりのKOに両拳を突き上げると「最初の右はプロでは初めての感触だった」と自画自賛。それでも、すぐに表情を引き締め直し「ここ2戦は謝罪会見みたいだったので、KOという事実を残せてほっとしている」。目指しているのはここではない-。そう言わんばかりに冷静な言葉を続けた姿に、高きプライドがにじみ出た。

 「倒す」という明確な意思を持ってリングに立った。試合が決まった3月上旬。ファンからサインを求められると、名前の横に「忠」という字を書き添えた。「心の上にいろいろなものがあると『患』になる。中心は1つでいい」。2試合続けての判定決着。迷いを抜けた先は、攻撃的なこだわりのスタイルだった。

 村田 試合前に怖いと思うのは、過去の自分にしがみついているから。金メダルを取っているから守りに入る。そのマインドを消すこと。これまではテクニックに走りすぎていた。最後は自分の長所で戦うしかない。圧力をかけて、倒しにいく。

 感謝の思いもあった。故郷の奈良で暮らす父誠二さん(60)が3月末で定年を迎えた。多弁な人ではないが、やんちゃだった中学時代にかけられた言葉は今も胸に残る。「どれだけ荒れた海でも、深海は穏やかなんだ」。節目のお祝いに東京までの新幹線のチケットを送った。2人の子供と3世代での時間を共有し、思った。「父のように、自分も子供に尊敬される父親になりたい」。強くあり続ける意味も再確認した。

 難しい試合を乗り越えたことで、「世界」につながる道はいよいよ本格化する。陣営は、今夏に初めて米国リングに立つ計画を進めている。層の厚いミドル級。世界挑戦のためにも、今後は本場で存在をアピールしていく戦いが待っている。日本ボクシング界の未来を担う男が、世界に殴り込みをかける時が来た。【奥山将志】

 ◆村田諒太(むらた・りょうた)1986年(昭61)1月12日、奈良市生まれ。東洋大では全日本選手権ミドル級で優勝。08年引退も09年春に復帰し国内13冠。12年ロンドン五輪で日本人48年ぶり金メダル。13年8月プロデビュー。家族は佳子夫人と1男1女。182センチの右ボクサーファイター。