どん底を味わった「魂のファイター」が、再びチャンピオンベルトを目指す!!

 ボクシング三津山ジムの柏樹宗(かしわぎ・つかさ=34)の復帰第2戦が15日、静岡市の清水マリンビルで行われる。昨年10月に1年7カ月ぶりの復帰戦でTKO勝ちした柏樹は、メーン10回戦でタイウエルター級11位のナリン・シヌセル(タイ)と対戦する。かつては東洋太平洋王者目前まで上り詰めた男が、重病と闘い抜いた愛する2児との再会の夢をかなえるため、1度は背を向けたリング上ですべてをぶつける。

 ボクシングでは「超」のつくベテラン柏樹が、全盛期同様に自分を追い込んでいる。引退していた1年7カ月で最大83キロまで増えた体重も、毎朝10キロ以上のロードワークと猛練習で60キロ台まで戻った。試合前日の計量までに66・6キロまで絞り込む。「僕にはボクシングしかないんですよ。早く試合がしたい」と闘志むき出しに心の叫びを口にした。

 苦難の連続だった。05年5月に、元東洋太平洋ライト級王者の坂本博之(38)を5回TKOで破り、一躍脚光を浴びた。3歳の時に「急性リンパ節白血病」に倒れた長男侃(なお)君(11)と、4歳で胆のう摘出の大手術を受けた次男の怜(りょう)君(10)の2児にささげるチャンピオンベルトを目指した東洋太平洋スーパライト級王座戦で1回KO負けし、人生が暗転した。階級をウエルター級(66・6キロ)に上げ、再起を試みたが4戦連続KO負け。家庭生活も崩壊し、昨年4月に離婚した。

 一昨年の12月以来、家族には会っていない。大病を克服し、校内マラソン大会で7位に入った侃君と「明日の朝から、また一緒に走ろうね」と約束した翌日に、突然の別れが待っていた。「ずっと家庭のことを顧みなかった僕が悪かったんです。でも、いつか必ず、子供たちとは再会したい。そのためには絶対に勝ち続けなきゃ。絶対にもう1度、タイトル戦を迎えたいんです」と涙ぐんだ。

 地元富士宮にある自分の後援会「宗(つかさ)会」の人たち、職場や同ジムの協力にも応えたい。約3年ぶりの勝利を挙げた昨年10月の再起戦のリング上で「こんな僕でも応援してくれる人がいる。もう1回でいいから、ひのき舞台に立ちたい」と号泣した。単身、静岡市内の会社でバイト生活をしながら、その思いをさらに募らせている。

 「チャンピオンになって骨髄ドナー登録や、献血を呼びかける運動もしたい。ボクシングを通して何か人の力になりたいんです」とも思っている。鋭い眼光の先には、1度も腰に巻いたことがないチャンピオンベルトしか見えていない。【神谷亮磨】