<プロボクシング:WBC世界ミニマム級タイトルマッチ12回戦>◇11日◇神戸ワールド記念ホール

 新王者となった井岡一翔(21=井岡)の叔父にあたる井岡弘樹ジム会長(42)にとって、02年8月のジム開設から9年目での世界王者誕生となった。現役時代は名トレーナーのエディ・タウンゼント氏(享年73)の指導を受け、世界2階級を制覇。一翔には5年前、この日に向けてエディ氏の形見であるネックレスを渡していた。自らのDNAを引き継ぐ新王者とのサクセスストーリーは今、始まったばかりだ。

 待望の瞬間、弘樹会長は左手を高々と上げた。自らが王者(当時ストロー級)になってから24年。世界のベルトが再び井岡家に帰ってきた。肩車されて泣く一翔を、1歩退いて見詰める。リング上では感情を出さなかったが、控室では「冷静」の言葉をさえぎり、早口で熱く語った。

 弘樹会長

 信じられません。高校で100戦してから、いろいろあってね…。長かったですね。夢のようです。僕と違って、面白い試合するでしょ。

 思いを託した。06年8月、興国高3年だった一翔が高校総体ライトフライ級を制した。高校5冠達成のご褒美に「宝物」をプレゼント。「強くなる可能性があると思った。『これから頑張れよ』という気持ちで」と渡したのは、銀のネックレスだった。

 それはマイ・トンブリフラム(タイ)を下して初めて世界を取った時、数多くの世界王者を育てた故エディ・トレーナーにもらったものだった。一翔が生まれる前年に亡くなった“恩師”の形見は今、おいが試合の日に必ず身につけている。自分を育ててくれた名伯楽の命日は今月1日だった。弘樹会長は「一翔と一緒に報告します」と、うれしそうに話した。

 ジム設立から、一翔の父一法さんと二人三脚で歩んできた。熱くミットを持つ兄の横で、会長として東奔西走。今回は一翔に減量法を伝授し、自らも指導を受けたサラス・トレーナーを招いてバックアップ。一法さんは息子と弟の共通点を「似てるね。特にマジメなとこが」と評する。

 試合後は長男輝樹(るき)くん(4)を初めてリングに上げ、一翔の肩に乗せた。「自分だけで強くなったわけじゃない」と新王者の手を引き、四方へ深々と礼。おいの「4階級王者宣言」を聞いた初代王者は「早く俺を超えてほしい」とニッコリ笑った。井岡弘樹の世界の戦いが、再び始まった。【近間康隆】