横綱昇進後、自身初の2場所連続優勝を狙う横綱日馬富士(32=伊勢ケ浜)が、約2年ぶりの対戦となった西前頭4枚目の千代鳳を上手投げで下し1敗を守った。場所前けがに悩む千代鳳に、幾多のけがを乗り越えている自身の体験を説いていた。その“教え子”に厳しさを教え込んだ。

 強烈な音が鳴っても、日馬富士は1歩も引かなかった。46キロも重い183キロの千代鳳の低い当たりを頭で受け止める。ひるんだのは相手だった。突き押しで起こして右上手を引き付けると、前に出ながらの上手投げで勝負をつけた。「自分の相撲に集中してやりました」と流れに身を任せた。

 14年九州以来の対戦となった千代鳳には場所前、出稽古に赴いた九重部屋で説く姿があった。先場所中に負った右肩肩鎖関節の脱臼で稽古しない姿に、居ても立ってもいられなかった。

 日馬富士 みんなけがしているんだよ。オレなんか左膝の靱帯(じんたい)が切れて、右膝も半月板がボコッと出ている。それでもやるんだ。けがと向き合わなきゃいけないんだ。無理してでもやらないと、やれなくなるぞ。つぶれるぞ。

 単なる文句や説教ではない。敬愛する故千代の富士の愛弟子を思っていた。

 千代鳳 「お前の相撲が好きだよ。上がってきたときの相撲が好きなんだ」と言ってくれました。「今は当たりはいいけど、四つで大きい相撲を取ろうとするから、けがするんだ」と。見てくれている。横綱は優しい。うれしかったです。

 けがを気にせずにできるトレーニングの仕方も教えた横綱は“教え子”に、身をもって覚悟を示した。

 中日を1敗で折り返すのは3場所連続。八角理事長(元横綱北勝海)は「期待に応えてついていっている。1敗は(優勝)範囲内」と言った。白鵬不在の今場所。「体が反応している。よく動いてくれています」と言う横綱の流れに、なっている。【今村健人】

 ★11場所ぶりの横綱戦で日馬富士に敗れた千代鳳の話 やっぱり楽しい。すごいドキドキする。もっともっと自分の持っている力を伝えたい。負けたけど、しっかり立ち合いで当てられた。もっと立て直さないと。

<日馬富士とけが>

 ◆右足首 10年九州直前の秋巡業で右肩を脱臼し、2日目には「右前距腓靱帯(きょひじんたい)損傷」と右足首を痛めた。大関昇進後、初休場。

 ◆右手首、左肘、左足首 猛稽古で痛め、13年末には左足首が悪化。14年初は初土俵以来初めて初日から全休。「靭帯が伸びて切れかけている」。

 ◆右目 14年秋の嘉風戦で負傷。「右眼窩(がんか)内壁骨折」と診断された。右目奥の鼻側の骨が陥没し、かけらも飛散した状態。人工骨を装着する手術を受けると「現役続行は厳しい」ため、手術は回避。

 ◆右肘 15年名古屋前に右肘を3時間手術し、遊離軟骨や骨棘(こっきょく)など計10個の骨を除去。しかし、初日の妙義龍戦で上手投げを放った際に右肘を強打。「右肘外側側副靱帯損傷」で途中休場。秋も全休。