◆チャップリンからの贈りもの(仏)

 チャプリンの遺体誘拐事件は死後間もない78年、スイス・レマン湖畔の墓地で起きている。失業中の自動車修理工ら2人が、身代金で工場を建てようとした浅はかな犯行だった。棺の重量に苦戦したり、未亡人に「夫は天国と私の心の中にいる」と交渉を拒否されるドタバタが、故人の喜劇をほうふつとさせた。

 今作は、動機を重病の妻の医療費に置き換える。けなげな1人娘やサーカスも登場させ、チャプリン後期の作品ばりにペーソスの度合いを増している。「神々と男たち」で知られるフランスのグザビエ・ボーボワ監督は随所にオマージュをちりばめ、天上のチャプリンが事件を温かく見守るような空気を醸す。

 犯人2人の口論がいつの間にか無声映画になるシーンは、もちろんチャプリン喜劇に重ねた演出だが、さらっとした導入に嫌みがない。主演は手だれのコメディアン、ブノワ・ポールブールドと名脇役ロシュディ・ゼム。さすがに肩の力が抜けている。クセのある顔に憎めない純情をすっとのぞかせる。棺の主人を守る執事(ピーター・コヨーテ)のいちずさもなぜかおかしい。タイトル通りのハッピーエンドに心が温まる。【相原斎】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)