横山秀夫氏のミステリーは謎解きの本筋はもちろん、組織と個人の複雑な絡み合いに読み応えがある。登場人物たちのベクトルがあちこちを向いて、ときに事件解決を難しくする。

 記者経験を生かして、警察と新聞社内部のせめぎ合いは克明で、個々の私生活にも重たい闇が設定されている。俳優としては難問山積だが、演じがいもある。

 刑事上がりの広報官として刑事部と、記者クラブとそして上司や部下と激しくやり合う主人公を演じた佐藤浩市は「身を削る毎日でした。文字通り皆さんとの十番勝負。刀傷を負いながらのゴールインでした」と振り返った。

 汗や涙や唾は本物だ。映像からにじみ出るようだ。組織内のやりとりは、そこまでとがっていないわが身にも会社員として思い当たるフシがある。リアルだ。

 原作で描かれる主人公には、昨年のNHKドラマのピエール瀧が近い気がするが、いい男過ぎる佐藤が漂わせる「情けなさ」は演技力のたまものだろう。

 30年前の風景はきめ細かく再現され、登場人物に時代の影を落とす。6月公開の後編にまたがる話になるが、壮年から老年を演じ分けた永瀬正敏に舌を巻く。【相原斎】

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