7年前の冬のニューヨークで、離陸直後の航空機のエンジンに鳥が衝突し、機長がハドソン川に不時着水させた事故が起こった。この実話を、クリント・イーストウッド監督が映画化した。事故そのものというより、事故後を描いた。英雄視されたサレンバーガー機長(トム・ハンクス)が、判断が正しかったのかと疑われた経緯だ。

 イーストウッド監督はこれまでも「父親たちの星条旗」「アメリカン・スナイパー」などで、よく知られた話のその後、もしくは裏側を教えてくれた。今回は、事故そのものをニュース映像の記憶とともに覚えているだけに素直に驚いた。

 物語は淡々と進む。記憶、現実、高層ビル群に航空機が突っ込む幻、家族との会話、事故調査委員会とのやりとり。大げさな描かれ方がされていないのは、かなりリアルに近いからだろう。装飾がない分、機長の心の動きがストレートに伝わってきた。

 乗客155人という数字が、単なる数字ではないこともきちんと描いている。1人1人に家族があり、ドラマがある。

 ニュース、出来事の表層をすくうだけの日々を省みた作品にもなった。【小林千穂】

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