一昨年に公開された仏映画「チャップリンからの贈りもの」は、喜劇王の遺体盗難事件の実話をもとに手の込んだコメディーだった。

 悲劇を裏返せば喜劇ということはままあるが、死の尊厳を損なわないようにコメディーを組み立てるのは難しかったはずだ。

 昨年、家族間のあるある感で笑わせたシリーズの2作目で、山田洋次監督はその「死」を題材に選んだ。

 73歳の父(橋爪功)は、ひょんなことで再会した小学校の同級生(小林稔侍)と深酒し、嫁(夏川結衣)の迷惑顔を尻目に自宅に泊める。翌朝、その同級生が死んでいた。家族会議で一家が集まってきて…。

 日常に降って湧いた究極の事態。遺体運びも日本家屋の狭い階段で足が滑る。やってきた出前持ちは腰を抜かし、平和な街の新米巡査はあわてふためく。

 分かってはいても、思わず噴き出す。状況作りと絶妙の間合いは「寅さん」に連なる職人芸に違いない。笑いの裏側に高齢化社会、孤独死と現代社会のひずみを照らし、山田喜劇のど真ん中にある1本だ。落語家としてブラックジョークになじみがあるからだろうか、演技巧者に交じって林家正蔵がひときわ面白い。【相原斎】

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