◆柘榴(ざくろ)坂の仇討(日)

 時代遅れと分かっていても、遂げねばならぬ思いがある。そんな男のロマンを感じさせる本格時代劇だ。

 彦根藩の剣豪・志村金吾(中井貴一)は、自らの失態がもとで主君の井伊直弼(中村吉右衛門)を切られてしまう。敵討ちを命じられた金吾は、人生の汚点をそそぐべく、13年がかりで実行犯の佐橋十兵衛(阿部寛)を捜しだす。皮肉にも「仇討ち禁止令」が敷かれたある日、柘榴坂で決闘に挑む。

 江戸末期から、明治へ移りゆく時代。街に洋装の人が増えていく中、中井はちょんまげに二本差しを貫く。こっけいでもあり、かっこよくもある。本当に大切なものは何か? そう問い掛けられている気がする。

 実年齢で19歳差ある広末涼子との夫婦のたたずまいも、古代ローマ人がはまっていた阿部寛の和装も、違和感がないから不思議だ。「時代劇を後世に残したい」。舞台あいさつでそう言った中井貴一ら出演者の思いが、作り込み度の高さという形で伝わってくる。決闘場面は、タイトルにもあるだけに、もう少し見たかったが、しんしんと降る雪の中、久石譲の音楽が温かく身に染みた。【森本隆】

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