4月期の春ドラマが続々と最終回を終えている。民放、NHKともにドラマ枠が急増する中、見終わってみれば、俳優も設定も脚本家もあれこれかぶりまくっていた印象だ。

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主演ドラマが2本重複した広瀬アリスを筆頭に、掛け持ち出演は本当に多かった。キリがないので、主演クラスだけざっくり挙げてみる。

○広瀬アリス 「探偵が早すぎる」(日テレ)、「恋なんて、本気でやってどうするの?」(フジ)

○大泉洋 「鎌倉殿の13人」(NHK)、「元彼の遺言状」(フジ)

○向井理 「先生のおとりよせ」(テレ東)、「悪女(わる)」

○江口のりこ 「ソロ活女子のススメ2」(テレ東)、「悪女(わる)」、「鎌倉殿の13人」

○倉科カナ 「寂しい丘で狩りをする」(テレ東)、「正直不動産」(NHK)

○神尾楓珠 「17才の帝国」(NHK)、「ナンバMG5」(フジ)、「先生のおとりよせ」

などなど。神尾楓珠は、「17才の帝国」で冷静沈着な17歳総理、「ナンバ」でヤンキー、「おとりよせ」で陽気な金髪配達員というまったく異なる役柄を演じ、フレッシュな人材だけに、その多才さに圧倒的な才能を感じた。しかし、多くの場合は、まったく違う役柄で目立つのも、同じような役どころで見分けがつかないのも、別キャラがちらついて混乱をちと感じる。

安定した脇役は需要が高いのか、石野真子は木曜の「やんごとなき一族」(フジ)と土曜の「パンドラの果実」(日テレ)の“中1日”でお母さん役で登場。さっきも見たような気がすることに加え、両キャラがけっこう異なる価値観のせりふを言っていたりして悩ましい。

「鎌倉殿」で源頼朝を演じている大泉は、粛清した弟、源義経のなきがらを入れたおけに向かっておいおい泣いた翌日に、月9でも神妙なお墓参りシーン。2日連続で亡き人に祈りまくる展開となり、もはや「おもしろい」という余韻も残った。

5番手6番手あたりまで広げると全局のタイムテーブルでさまざまな俳優、女優がかぶりまくり、受け手にも“切り替え力”が求められるようになった。制作側は自身の作品に集中しているのでよそには目が向かないと思うが、たいていのドラマファンはそれ1本だけ見ているわけではないので、かぶりの同時多発はそこそこスパルタに感じてしまう。

出演者だけでなく、設定もいろいろかぶっていた。

「恋なんて、本気でやってどうするの?」と「恋愛未満エスケープ」(テレ東)は、妻や恋人を顧みない男性の描写として、家で何もせずゲームばかりしている“ゲーム男”が登場。「恋なんて」と「持続可能な恋ですか」(TBS)は、本音を語らせる場所として“仲良し3人組の女子会”を設定し、おしゃれなお店で似たような女子トークが展開した。「未来への10カウント」(テレ朝)と「パンドラの果実」は、亡き妻と生き写しの人物に遭遇する、という偶然がかぶり、主人公にひと波乱ある展開だった。

出演者かぶりや「病院ドラマばかり」などのテーマかぶりが多発するのは、ドラマ枠が続々と増えだしたここ数年の流れだ。

視聴率が頭打ちとなる中、若い視聴者層の獲得と、見逃し配信による放送外収入が見込めるドラマカテゴリーは今や各局の編成戦略の中心。この4月改編だけでも、TBS火曜深夜、フジ水曜10時、テレ東火曜深夜、NHK夜の帯ドラマ「夜ドラ」などが新たにお目見えした。BS局や新しく開局したBS松竹東急のドラマ枠、配信ドラマなどを合わせると大増殖の様相。器用な俳優頼み、よくあるテンプレ頼みになるのは避けられないのかもしれない。

ちなみに、「正直不動産」(NHK)、「しろめし修行僧」(テレ東)の根本ノンジ氏や、「クロステイル」(フジ)、「家政婦のミタゾノ」の八津弘幸氏など、同じ脚本家の作品が同時進行で放送されてもいて、おもしろい作品を書ける脚本家も大いにかぶっていた。映画監督や演劇作家のドラマ参戦もここ数年相次ぎ、クリエイターも争奪戦の様相だ。

7月期の夏ドラマももうすぐスタート。もはや、かぶりも積極的に楽しむくらいの心境で待ちたい。【梅田恵子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能記者コラム「梅ちゃんねる」)