今年のカンヌ映画祭で、日本の文化や産業を世界に発信する新たな取り組み「ジャパンデイ プロジェクト」がスタートした。

 その最大のイベントとして18日夜(日本時間19日)に、映画祭のメーン会場・パレ近くのグランドホテルで、新作映画の情報発信や日本人俳優を紹介するパーティー「KANPAI NIGHT」(以下カンパイ・ナイト)が開催された。放送作家の小山薫堂氏(50)がプロジェクトプロデューサーを務め、パリで人気の日本食店のシェフを招き、すしやそば、お好み焼きや串カツなど、バラエティーに富んだ日本食が提供された。

 集まった招待客は1100人。その中に、日本はもちろん、海外の映画界の要人も名を連ねた。日本からは、KADOKAWAの角川歴彦会長、東宝の島谷能成社長、松竹の迫本淳一社長、ギャガの依田巽会長、サザンオールスターズや福山雅治らが所属する大手芸能事務所アミューズの大里洋吉会長、東京国際映画祭の椎名保ディレクタージェネラル、経済産業商務情報政策局の柏原恭子文化情報関連業課長が出席。この7人は「カンパイ・ナイト」の前に映画祭内に設けられたジャパン・パビリオンで「オールジャパンサミット:パワープレイヤーズ パネル・ディスカッション」と題した講演会を開き、日本のコンテンツの魅力や今後の事業展開を語った。

 海外からは「山河故人(原題)」で今年のカンヌ映画祭コンペティション部門に4回目の出品を果たし、功労賞「ゴールデンコーチ賞」を受賞した中国のジャ・ジャンクー監督、カンヌ映画祭のクリスチャン・ジュネ・ディレクター、韓国・釜山映画祭のキム・ドンホ名誉執行委員長、カナダ・モントリオール世界映画祭の創始者セルジュ・ロジーク氏が出席した。

 「カンパイナイト」は、映画祭開幕6日前の7日に、都内の外国特派員協会で行われた会見で発表された。その際、記者は小山氏に対し「『カンパイナイト』の趣旨は理解できるが、1000人も集めたはいいが、海外の客が日本食を食べて、帰るだけのイベントになってしまったら意味がないし、そうなる危険性もあるのではないか?」と、辛辣(しんらつ)な質問をぶつけた。同氏は、しばし考えた上で「完璧な土壌を作るのが僕の仕事。当事者(参加する日本の各社)が本気で売り込んでほしい」と力説した。

 実際に「カンパイナイト」を取材して、日本と世界の映画関係者が各所で旧交を温めたり、語り合う姿を目の当たりにして、日本のためにこんなに多くの人が集まっただけでも、一定以上の成果はあったように思えた。日本映画界の要人や深津絵里(42)浅野忠信(41)永瀬正敏(48)ら俳優陣が退席した後は、ごく普通のパーティーになっていたが、日本食に舌鼓を打つ海外の人から「おいしい」という声も上がっていた。

 一方で、課題も感じた。とにかく会場が手狭で、歩くのが困難だった。以前から見知っている人と再会するのはまだしも、人が人を介し、新たな人と出会いやすい環境だったか、といえば決してそうではなかっただろう。また日本食を提供する各コーナーに観客が殺到。各所に行列ができ、なかなか食べることが出来ず、いら立つ人も少なくなかった。立食形式のため、紙の皿やプラスチック容器を使わざるを得なかったのも分かるが、日本での会見で小山氏が「ミシュランが星をつけたくなるような日本料理を提供したい」と意気込んだ言葉には、及んでいないとも感じた。会場の問題、料理の提供のしかた含め、考えるべき点はある。

 小山氏にはパーティーの最中、そして翌19日に「ジャパン・パビリオン」で行われた「くまモン・デー」の席で直接、話を聞いた。記者が「日本のために、これだけ人が集まったのは壮観でしたし、開催した意味は大いにあったのではないですか?」と聞くと、同氏も見解を語った。

 「今回、初めてなので、これだけ人が集まったら、まぁまぁの合格だと思う。でもこの間の会見で質問されたとおり、いかにセレンディピティな(別の価値あるものを探す)出会いが出来る仕掛けを、もう少し考えられたらいいなと思う。来年以降、頼まれるか分かりませんけど、何か仕掛けがあってもいいかなと思いますね」

 「ジャパンデイ プロジェクト」は7月2~5日にフランス・パリで開催されるジャパンエキスポなど、今後も世界の各イベントでさまざまな展開を行っていく予定だ。これからも注目していきたいし、小山氏には今後も、このプロジェクトについて、そして日本の文化について語り、考える機会をいただければ…と思っている。(村上幸将)