俳優渡辺謙(55)が、NHKスペシャル「私が愛する日本人へ~ドナルド・キーン文豪との70年~」(10日午後9時)でナビゲーターを務め、このほど取材に応じた。海外でも活躍する渡辺が、「日本とは」「日本人とは」と文学者として問い続けたドナルド・キーン氏(93)に触れ、「日本」について語った。

 昨年12月、渡辺はキーン氏をインタビューした。戦後70年にわたって、日本文学の魅力を世界に伝え続けた同氏に大いに共感し、刺激を受けた。

 「ある意味『戦後の日本文学史』という方です。僕も外国で仕事をさせていただいて、違う視点で日本を見返すというのはここ15年ですが、キーンさんは70年くらいやっていらっしゃる。戦後日本の復興など、いろいろな局面での日本人の心根みたいなものを、本当につぶさに見ている方です。同じ日本人だと、感じなくて済んでしまうことも見ていらっしゃいます」

 今年は米ブロードウェーミュージカル「王様と私」で主演を務めた。異国の地で、あらゆる国の人々と仕事をすることで、あらためて感じることも多かった。

 「キーンさんにお話をうかがったとき、僕も同軸にいるという感覚がすごくありました。キーンさんの方が圧倒的に深いですが、日本という国を、僕も少し見えてきたかなという感じはありました。それは、日本にある伝統というものを、きちんと学んで、自分の中に取り入れていかないといけないということです。そして、日本はちょっと内向きだということ。もったいない。世界は広い。『今、自分たちはどこの位置に立っているのか』。考える時間や習慣、教育をもっとするべきだと思います」

 キーン氏は、日本人の特殊性として、勤勉さなどの良さも指摘している。一方で、「日本の文化を広めようとする努力を惜しんできた」と指摘する。5年後に東京五輪を控え、日本を世界にアピールする機会が訪れる中、新国立競技場の建設問題が発生。渡辺もツイッターで「不思議なニュース」と苦言を呈した。

 「ちょっと肩肘張りすぎているんじゃないかと思うんです。日本の良さとか文化を発信するチャンスは、僕らの仕事も含めて、映画でも音楽でも、いろいろなところにあるはずです。それをすべて五輪に集約するのは、得策なのか。ではその5年間は他に何もできないのか? そして、その後はどうするのか? という話になります。五輪がゴールではない。その先に何がしたいのか。しっかりとしたビジョンを僕らは描かないといけません」

 役者としても、世界に伝えていくべきことはたくさんあるという。

 「僕はキャリアというのは、映画の本数ではなくて、関わり合うスタッフの数だと思っています。それがつながっていくことで、僕の人間に対する見方、日本人としてのものの見方を伝えていかなければいけないし、相互理解も含めてやっていきたいと思います」

 キーン氏の言葉や生きざまにも、ヒントがあるはずと、力を込める。

 「キーンさんは本当に日本が大好きな方です。これほど日本を愛してくれている方が、日本のことを思ってくれているということを感謝すべきだと僕は思います。日本はもっと自信を持っていいと思いますし、だからこそちゃんと伝えていこうとするべきです。キーンさんを通して、感じていただければと思います」

 まっすぐな視線と力の入った言葉…すべてに実感がこもっていた。【大友陽平】