12日に亡くなった演出家蜷川幸雄さん(享年80)の通夜が15日、東京・青山葬儀所でしめやかに営まれた。「世界のニナガワ」と呼ばれた名演出家だけに、芸能界、劇場関係者、政財界からファンを含め、約1500人が参列した。長女で写真家の蜷川実花さん(43)が通夜の前に取材に応じ、父への思いを語った。葬儀・告別式は16日正午から、同所で営まれる。

 蜷川実花さんは「一番尊敬できる人。入院中に何回も危ない時があったけれど、鮮やかによみがえった。多くの人に愛され、幸せな人生だった」と亡き父をたたえた。

 昨年12月に肺炎で入院以来、毎日のように病室を訪れたという。亡くなった12日は息を引き取る20分前までいたが、仕事で病院を離れた直後に訃報を聞いた。「2日前から呼び掛けても反応がなかった。家族も覚悟していたし、穏やかな最期でした」。亡くなる10日前から「ありがとう」と感謝の言葉を口にし、3日前に、実花さんが「後はまかせてね」と言うと、うなずいたという。

 若いころは妻真山知子さん(75)が女優として稼ぎ、蜷川さんが実花さんら2人の子育てをした。「長男のように育てられ、一番の教えは『自立した人間であれ』ということ。一番褒めてくれたのは『お前、最近流行しているらしいじゃん』という言葉でした。優しい父だったけれど、私の息子と仲が良く、私が見たことのないデレデレの甘い顔をしていた」。蜷川さんは8歳と生後8カ月の2人の孫の成長を楽しみにしていたが、晩年には「いい兄ちゃんになったところが見られないのが、一番残念」と言っていた。

 亡くなる1週間前、真山さんが病室にいなかった時、「真山は?」と言ったのが最後の言葉になった。「母とは仲良しで、いいコンビだった。寂しいけれど、ともに最後まで駆け抜けたという感じでした。『家のことは全部やるんで大丈夫です』と言いたいです」と気丈に話した。