河瀬直美監督(47)がエグゼクティブディレクターを務める「第4回なら国際映画祭2016」(9月17~22日、奈良市で開催)ラインアップ発表が2日、都内の奈良まほろば館で行われた。

 映画祭では同監督がプロデュースし、世界的に注目される若手監督の1人、キューバのカルロス・M・キンテラ監督がメガホンを取った映画「東の狼」が、9月17日にワールドプレミア上映される。それを受け、ラインアップ発表には主演の藤竜也(74)が駆けつけた。

 「東の狼」は奈良県東吉野村で長年、猟師会の会長を務める75歳の猟師アキラが、100年以上前に同村で絶滅したとされる、幻のニホンオオカミを求める物語。藤は約1カ月間、東吉野村の村営住宅で生活し、撮影に臨んだ。奈良はシカが多く生息しており、藤は「夜になると(住宅の)庭にも、シカのファミリーが現れる」と振り返った。猟師を演じるため、現地では狩猟したシカの解体も体験。「とにかく、カメラが回ったら、皮を全部はいで、四肢を全部取って食べられる状態まで回しっぱなし。仕方ないから、必死でやりました」と苦笑した。

 開催までには、紆余(うよ)曲折があった。12年の第2回以降、奈良市から補助金が拠出され、本年度予算案の段階でも1260万円の補助金が予算提示される約束を受けていたが、3月の奈良市議会予算審議特別委員会で補助金全額カットが決定され、開催が危ぶまれた。

 河瀬監督は「臨時理事会で最低でも3、4日間の開催はしていこうと決めたが、3分の1の予算が集まっていなかった。開催危機と報道していただいたおかげで、一般の方が1万円で支援できる『レッドカーペットクラブ会員』というものに、全国から会員になっていただき現在、会員は600人近く。一般からの思いで補填(ほてん)されました」と感謝した。

 一方で、「広報ができていなかったから、正式に招待した方しか来られない、ハードルが高いものだったかな。ピンチがチャンスに変わって(広く観客が集まる)きっかけになれると思う」とも話した。その上で「第4回なら国際映画祭2016」の意義を強調した。

 「今の時代、人と人の心が交わり、本当に温かくなる場面は、なかなかないと思う。奈良という、東京よりゆったりとした時の流れのところで、それを体験すると(奈良が)かけがえのない場所に、きっとなる。奈良は1300年の歴史が確実に降り積もり、大仏さんもさることながら世界遺産の仏像があちこちにある。単に観光というだけじゃなく、本当に今、そこで生きている人と(映画祭の観客が)交わり合うことが、本当の奈良の良さを発信するきっかけになると思う」

 「第4回なら国際映画祭2016」は、河瀬監督も縁が深い世界3大映画祭の1つ・カンヌ映画祭の学生作品を対象としたシネフォンダシオン部門がパートナーシップを結ぶことが決まっている。同監督が、今年のカンヌ映画祭で短編部門と同部門の審査委員長を務めたことから実現。その縁で、短編部門とシネフォンダシオン部門の4作品が上映される。またなら国際映画祭の学生部門「NARA-wave」に選出された作品を、カンヌ映画祭シネフォンダシオン部門のディレクターへ直接、届けることになっており、若い日本の才能が映画を通して奈良から日本、世界へと羽ばたくことも、大きなテーマとしている。