東映やくざ映画で活躍し、「十津川警部」シリーズなどテレビドラマで広く親しまれた俳優渡瀬恒彦(わたせ・つねひこ)さんが14日午後11時18分、多臓器不全のため東京都内の病院で死去した。72歳。16日、所属事務所が発表した。葬儀、告別式は親族のみで行う。喪主は妻い保(いほ)さん。

 渡瀬さんは15年に胆のうに腫瘍が見つかり、手術をせず治療する方針を取り仕事を続けてきた。今年2月中旬までテレビ朝日系ドラマ「そして誰もいなくなった」(3月25、26日午後9時)の撮影にも参加したが、終了後に気胸で入院。結果的には同作が遺作となった。

 気胸で入院後の渡瀬さんは、呼吸の苦しさが収まれば現場復帰はできるため、仕事再開を目指して治療に励んでいたが、3月になって敗血症を併発してしまった。

 しかし、4月スタートのテレビ朝日系「警視庁捜査一課9係 season12」への出演には意欲をみせていたという。亡くなる前日13日には、マネジャーと「9係」の打ち合わせをしたという。14日も意識はあったが、容体が急変し同日夜、妻子が見守る中、息を引き取った。

 所属事務所は「ファンの方々、撮影をご一緒させていただいたキャスト、スタッフの皆さまから並々ならぬご声援をいただき、幸せな俳優人生をまっとうできました」と、感謝をつづったコメントを発表した。都内の自宅には、代表作の1つでテレビ朝日系ドラマ「おみやさん」シリーズの原作者石ノ森章太郎氏の事務所や、女優賀来千香子ら、関係者、共演者からの供花や弔電が届いた。

 渡瀬さんは広告会社勤務を経て東映に入社した異色の経歴の持ち主。70年に映画「殺し屋人別帳」で主演デビュー後、「仁義なき戦い」など東映やくざ映画で血気盛んな若者を演じ、スターとなった。

 その後、幅広い役をこなす演技派として評価を高め、テレビドラマに主軸を移した。「十津川警部」「タクシードライバーの推理日誌」といった人気2時間ドラマシリーズや、連続ドラマ「警視庁捜査一課9係」など息の長いシリーズが多く、ファンに愛された。

 散歩が趣味だった渡瀬さん。散歩途中で出合ったカメや花を写真に収めるなど、優しく穏やかだった。ベテランになっても、誰よりも早く現場入りする謙虚さで知られた。遺作となった「そして誰も-」の現場にも、撮影開始の1時間以上前に到着していたという。

 私生活では、故大原麗子さんと73年に結婚し、78年に離婚。翌年、い保さんと結婚した。