お笑いタレント劇団ひとり(33)が、4年半ぶりに書き下ろした小説「青天の霹靂(へきれき)」(幻冬舎)を27日に発売する。06年に出版したデビュー作「陰日向に咲く」は、累計130万部となる大ベストセラーとなり、08年には映画化され話題となった。日の当たらない人々を取り上げた5作の短編集だったが、今作は構想と執筆期間それぞれに約1年をかけた長編作品だ。

 浅草を舞台に、学歴も金も、恋人もいない35歳の主人公・晴夫が、唯一得意なマジックを通じて出会う、人生の軌跡を描く。前作が大ヒットだけに、ひとりは「プレッシャーはもちろんありました。前は売れすぎ」と苦笑いしながらも「幻冬舎さんから『次も書いて下さい』と言われるくらい売れたら御の字。映画化はリアルに考えています」と自信をみせる。担当編集者は「登場人物をはじめとした物語の世界が細部まで描きこまれ、より愛着の持てる作品」と言い、初版は前作の2倍の3万部だ。

 ビートたけし、松本人志、品川祐など芸人作家は多いが、ひとりは「たけしさんの『浅草キッド』が好きです。僕はネタが1人称ものが多いので、登場人物になりきって書いたり、テレビやラジオで言えないことを小説に入れたりします」。題材になりそうなメモは欠かさないといい「とっさにボールペンで手に書くことも」と携帯電話に付けた小さなペンを見せた。

 仕事以外は、本を書いたり、読んだりすることに費やし、毎日少しずつ執筆活動に打ち込んだ。マジックバーや浅草に足を運び、取材も重ねたという。「緻密(ちみつ)に構想を練っても、いざ書き出すとつじつまが合わなくて苦労しました。想像が徐々に輪郭を持ち始めて、ひとつの世界が出来上がっていく過程が楽しい」。芸人作家は生みの苦しみも伴うが、やめられそうもない。【梶ひと美】

 [2010年8月25日9時2分

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