あっちゃんのリベンジがかなった-。第3回AKB48選抜総選挙の開票イベントが9日、東京・日本武道館で開催され、昨年の第2回総選挙で2位だった前田敦子(19)が驚異の13万9892票を集めて、前回1位の大島優子(22)に1万7049票の大差をつけて1位を奪還した。5月25日の速報発表では2位も、最大のライバル大島を逆転してのトップ当選。昨年と正反対の展開で、ドラマを起こした。8月24日発売の新曲のセンターポジションに立ち、今後のAKB48を引っ張っていく。投票総数も昨年の約38万票から、今年は40位までで約108万票に跳ね上がり、イベントは単なるブームを超えた国民的関心事にまで成長した。

 あっちゃんはもう、発表途中から泣いていた。2位大島が発表され、1位が確定した瞬間。両手で顔を覆い、泣き震えた。登壇する足もふらつく。感激にむせび泣き、本音をむき出しにした。「こんなに支えて下さっている皆さんがいるのに、どこかで孤独と戦いながら、毎日を過ごしてきた部分もありました」。

 第1回の1位は栄誉のはずが、当時はあまりに大本命すぎたために、発表直前に予想外のアンチ前田コールを浴びせられ、トラウマになった。今回は観客の大声援に迎えられたにもかかわらず「私のことが嫌いな方もいると思います。でも、私のことは嫌いでも、AKBのことは嫌いにならないでください!!」。本人も素直に喜びたいのに、思わずおびえた言葉を叫んでしまった。まだ10代の前田が背負ってきた十字架が、どれほど重かったものか。皆が思い知らされた。

 5年半前の発足以来、絶対エースと呼ばれた前田は、いまだに孤独だった。開票2日前も、本紙取材に「メンバーと仲良しだし、優しいお母さんもいるけど、それでも時々、無性に突然さみしくなるんです。記者さんは、そんなときってないですか?」。飼い犬は、毎年1匹ずつ増え続けて、現在は5匹。疲れ果てて帰る自宅で本音を漏らせる、貴重な話し相手だ。寂しい理由だけで、美容院に足を運んだ夜もある。大島も1度はセンターに立ったが、常に立ち続けてきた孤独感だけは、誰にも共有してもらえない。

 実はAKB48の歴史も、逆風との戦いだった。当初は「アキバのヲタク向け制服コスプレアイドル」とマイナー視された。人気を獲得しCDセールスを伸ばしても「握手会のおかげ」などと、いわれなき陰口をたたかれた。その逆風を毎日先頭で浴びながらも、すべてを乗り越えて国民的グループに導いた功労者の1人が、前田だった。

 もっとも、前田は周囲への感謝を忘れないことで、自我を保ち続けてきた。先日はサプライズで両親を沖縄料理店に誘い出し、「また連ドラ撮影の毎日で、じっくり向き合えなくなっちゃうけど、いつもありがとう」と、ごちそうした。「今回あらためてたくさんの人に応援され、支えていただけていることを感じることができました。皆さんに少しでも認めていただけるように、私なりに頑張っていきたいと思います」。前田が日本一忙しいアイドルとして走り続ける原動力=ファンへの感謝のスピーチだった。

 もう、アンチ前田コールがあるはずもない。前田の奪還劇に日本武道館は熱狂した。決して、映画初主演などのメディア露出の多さだけが、勝因ではない。ファンは“絶対エース”の返り咲きを、待ち望んで投票した。「これから1年間は、みんなと一緒にAKBが笑顔を届けていきたいです」。弱音は今夜で最後。再び大衆の支持を受けて自信を取り戻したあっちゃんが、AKB48を引っ張っていく。【瀬津真也】