俳優高倉健(80)が6年ぶりの主演映画「あなたへ」(降旗康男監督、12年秋公開)で完全燃焼した。9月7日から始まった撮影が、このほど北九州市の門司港のロケでクランクアップ。高倉は都内近郊を含め、総移動距離9000キロに及んだ2カ月半のロケ中、たった1日のオフも現場に顔を出し、佐藤浩市(50)、SMAP草なぎ剛(37)と共演したラストシーンを撮り終えた際は「感慨無量です」と言葉をかみしめた。

 高倉は身を切るような寒さの中、関門海峡を左手に門司港沿いの道を約100メートル、1人きりで歩くラストシーンの撮影に臨んだ。吹きすさぶ海風に負けない力強い足どりで1歩1歩、港道を踏みしめた。OKが出ると、降旗監督をはじめスタッフに囲まれ、祝福のクラッカーと拍手を浴びた。

 10年ぶりにコンビを組んだ降旗監督から、ロケの写真とスタッフからの寄せ書き、写真がメーキング映像風に流れるデジタルフォトフレームを贈られた。「こんなこと、してもらったことねぇよ」。そうつぶやいた後に降旗監督から「じゃあ、またお会いする機会がある日があれば…」と言われて瞳が少し潤んだ。56年にデビューして55年。18作をともにした盟友の言葉に「珍しく監督が興奮していたので、なんかグッときました」と思いを明かした。

 この日までの2カ月半。高倉は、1日あったオフもクランクアップを迎える長塚京三、原田美枝子のために現場に顔を出した。総移動距離約9000キロの旅路は、余裕がある限りは実際に車で移動しロードムービーを体感しながら撮影した。富山からの帰り道では台風15号の直撃を受けた。そんな日々を振り返りながら、高倉は「感慨無量です」と3度繰り返した。

 「少し寂しい…いや、大変寂しい」と振り返る草なぎには「どっちだよ。少しか、大変か?」と突っ込んだ。「また、旅にお付き合いできる機会があったら、ぜひ」という返答には「ぜひ事務所にそう言ってください。(スケジュールが)空いてますから」とジョークを言ったが、今後については「終わったばっかりで、そこまでは」と言うにとどめた。

 05年12月に中国で公開された映画「単騎、千里を走る。」以来6年ぶりの撮影について、10月の岐阜・高山ロケでは「何でこんなに長い間休んでたのかなと思うくらい楽しい」と語っていた。そして、撮影を終え、「とてもいい旅をさせていただいたと思っています。いい旅でした」と言った。80歳の高倉が全身全霊を注いだ作品は、来年秋に公開される。【村上幸将】

 ◆映画「あなたへ」

 北陸・富山刑務所の指導技官倉島英二(高倉)は、50歳を目前に慰問に来た歌手洋子(田中裕子)と結婚した。2人は子どもを望まず、平穏な夫婦生活を営んでいたが15年後に洋子が53歳で亡くなった。残した手紙にはスズメの絵とともに「故郷の海に散骨してほしい」と記されていた。英二は自家製キャンピングカーに乗り、イカめし販売員の田宮(草なぎ)、南原(佐藤)らとの出会いを経て妻の故郷である長崎県・薄香港へ総距離1200キロの旅をし、遺言に従って散骨し、生前語られなかった妻の真意に気づく。※なぎは弓ヘンに前の旧字の下に刀