俳優水谷豊(59)主演の映画「少年H」(降旗康男監督、13年夏公開)がこのほどクランクアップした。韓国南部の陜川(ハプチョン)に造られた焼け野原の巨大セットでクライマックスシーンが撮影された。撮影後は息子役の吉岡竜輝(11)と抱き合い、「ずっと豊かな気持ちでいられた」と感激の面持ちだった。父親を演じた水谷は撮影期間中、映画の現場に不慣れな子役たちをリラックスさせようとオヤジギャグを連発。役柄同様、優しい父親ぶりで家族をまとめた。

 地面から煙が立ち上る焼け野原の真ん中。水谷は降旗監督から花束を贈られると、表情を崩して喜んだ。「終わってしまった寂しい気持ち、作品が出来る楽しい気持ちの両方を味わっています。降旗組の2カ月は、行き先が分かっているんですけど監督が何を言うのか毎日楽しみな、遠足なんだと思いました」。そして「H君もお疲れさま」と言いながら、息子役の吉岡を右腕で強く抱きしめた。

 水谷は、太平洋戦争を冷静に見詰めながら生き抜く妹尾家を支える父親役。妻は私生活でも夫婦の伊藤蘭(57)が演じた。伊藤とともに撮影初日の5月13日から、吉岡と娘役の花田優里音(8)に寄り添い、家族の雰囲気づくりに努めた。映画初出演の吉岡の緊張を少しでもほぐそうと、毎日のようにダジャレを言って笑わせた。韓国ロケ中のある朝、吉岡が「夜(韓国料理の)チヂミを食べようかなあ」と言った。するとすかさず水谷は「じゃあ夜、縮んじゃう?」と苦しいダジャレで吉岡を笑わせた。吉岡は「毎日のように言うので、全部のオヤジギャグは覚えてません」。これには水谷も「そんなこと覚えてるの?」と照れ笑いを浮かべた。

 テレビ朝日系ドラマ「相棒」や今年公開された主演映画「HOME

 愛しの座敷わらし」などの関係者によると、水谷が撮影現場などでダジャレを連発する姿は見たことがなかったという。「相棒」シリーズや「少年H」を手掛ける松本基弘プロデューサーは「(子役を)リラックスさせるために言ったとお見受けしました」とみている。

 撮影合間の取材では父親としての素顔も明かした。1人娘の女優趣里(21)が俳優田島優成(24)と交際中と一部週刊誌に報じられたが、「僕は娘に『自由にして』と言って、仕事もプライベートも口を出さないようにしています。1人娘にやってあげられることは口を出さないことだと思ってるの」と笑い飛ばした。公私にわたる“父親”としての優しさがスクリーンにも映しだされるはずだ。【村上幸将】

 ◆映画「少年H」

 原作は妹尾河童氏の同名小説。洋服仕立職人の父盛夫(水谷)と母敏子(伊藤)の間に生まれた肇(吉岡竜輝)は、母が編んだセーターに編み込まれた「H」のイニシャルから「エッチ」と呼ばれるようになる。好奇心旺盛な肇は外国人が多く居留し異国の薫り漂う神戸の街でさまざまなものを見て感じて成長する。第2次大戦開戦後の不穏な世の中に疑問を持つが、盛夫から現実を見るよう教えられる。