新潟県糸魚川市の大火は、発生から約30時間後の23日午後4時半に鎮火した。市は延焼が約150棟、約4万平方メートルに及んだとみられると明らかにした。火災では、1650年(慶安3)から続く、新潟県最古の造り酒屋「加賀の井酒造」も全焼したとみられる。18代目蔵元の小林大祐さん(34)は「下を向いても未来は来ない。この場所で、また酒を造りたい」と誓った。

 迫る火の手をはっきり確認したのは、火災発生から1時間後の22日午前11時半ごろだった。小林さんは「隣のブロックの建物が燃えるのが見えた。火の勢いが強かった」と振り返る。当時、7人いた従業員とともに避難した。「1時間もしたら戻れるかもしれないと、仕込み中だった米やこうじに布をかけて出た」。だが戻れなかった。燃えていく町をただ、テレビの画面で見守るしかなかった。

 大火から一夜明け。まだ煙と焦げたにおいが残る中、小林さんは建物の様子を見ようと、立ち入り規制のテープぎりぎりまで近寄った。長い歴史を刻んできた建物が、あるべき場所になかった。「寂しいですね」と漏らしたが、「この大惨事の中で、人の被害がほとんどなかったということに安堵(あんど)しています」と、自分に言い聞かせるように話した。

 加賀の井酒造は、今年で創業366年。酒どころ新潟県最古の酒蔵は、糸魚川市のシンボル的存在だった。規制のため正確な被害状況は分からないが、「(22日は)1000本分の用意をしていた。すでに酒をつめていたのはその2、3倍ほどあった」。大事な酒と建物が失われたとはいえ、このまま終わるわけにはいかない。小林さんは「(酒蔵は)加賀藩の本陣があった場所。だからまた、同じ場所で新しくやりたいんです」と強い決意を語った。

 酒造のホームページによると、「加賀の井」は加賀藩前田家3代藩主、利常が命名したもの。蔵の中には前田家ゆかりの品も展示されていたという。糸魚川は日本海に面し、もともと風の強い土地。過去の火災では、区画整理など街の大改造が行われた。小林さんは「街のデザインが変わるかもしれないが、自分たちにはやらなければいけないことがある」。変わり果てたこの場所で、歴史と伝統を守り続けていく。【小松正明】

 ◆加賀の井酒造 1650年創業。加賀藩主前田利常が、1652年に本陣を置いたことから、酒銘「加賀の井」が命名された。醸造された酒は、その後藩主、家老の献立にも用いられた。敷地は2800平方メートルで、酒蔵を含む6棟の建物があった。前田家からの寄贈文など、歴史的価値のあるものも収蔵されていた。