新潟県糸魚川市中心部の大火から22日で1カ月。地元の飲食店が、復興に向けて立ち上がった。「第16回糸魚川荒波あんこう祭り」が同日、火災現場に近いJR糸魚川駅前で行われ、市内の5店舗があんこう汁約1500杯(1杯500円)を提供。被災後初のイベントに訪れた人々を楽しませた。火災現場に隣接し、辛うじて焼失を免れた2店舗もオリジナルのあんこう汁で参加。市街地再生への決意を新たにしていた。

 祭り開始時間の午前10時。糸魚川駅に隣接するヒスイ王国館の2階ホールは、あんこう汁の販売を待つ人々であふれた。5店舗が約300杯ずつを提供。昼前には売り切れ、別の物販コーナーへ誘導するスタッフの声が続いた。

 最初に完売したのは、地元で創業80年の老舗料理店「春よし」だった。酒かすと3種類のみそを混ぜ、独特の風味が好評。店主の高橋良男さん(60)は「5店舗が一緒に提供できて良かった。皆さんに楽しんでいただけたらうれしいです」と笑顔を見せた。

 店舗がある本町10番地は、日本海に近い火災現場北部に隣接。数十メートル先まで火が迫った。「市内の親戚宅に避難して、店はダメだと覚悟した。翌朝に見に行ったら、全部残っていた。涙が出ました」。火災発生後の新年会や忘年会はキャンセル。ガスや水道が3日後には復旧したため、注文を受けていたおせち料理を作り始めたという。

 今月7日から営業を再開したが、近隣にがれきが残り、客足は遠のいたままだ。「街の再建は当分先になると思うが、少しずつにぎわいを取り戻したい。そのためにも、店の営業を続けます」と力を込めた。

 ゴマみそ味のあんこう汁を提供した居酒屋「おけさ」も、大町1丁目の店舗が火災現場の脇だった。伊井浩太代表(32)は「東向きの風だったら、店は燃えていた。運が良かっただけ。半分あきらめていた」。消防団員として消火活動に参加。作業に集中し、何も考えられなかったという。

 東京で料理人の修業をし、漁師として海に出て、父の代から続く居酒屋の経営も任されている。「街が再建されて、元気になれば、お客さんは戻ってくるはず。日本海では四季を通じていろんな魚が取れるので、ぜひ食べに来てほしい」と訴えた。【柴田寛人】