阪神で唯一、WBCに出場した藤浪はドジャースタジアムのベンチ最前列で声援を送っていた。天下分け目の準決勝米国戦で出番は訪れず、1試合登板にとどまった。エース菅野や石川が先発の軸で、千賀や平野がフル回転した。投手の用兵を目の当たりにして不安視する向きもおられよう。

 WBCに敗れ、息つく間もなく開幕モードに入る。藤浪がどのようにシーズンに入るかは重要な問題だ。日本に帰国して、おもなテーマは2つある。まずは実戦感覚だ。本番は10日中国戦の2回無失点だけ。3月の試合登板は4戦で9イニング、総球数は163球。昨年の3月当初から同時期までの時点で2戦10回2/3、総球数201球。15年は3戦11回、160球。過去2年と比べて、今年は約1週間、初登板が遅くなるし、2軍戦で調整していけば、さほど問題はなさそうだ。

 もう1つは、NPB公式球に対する順応だ。2月の宜野座キャンプ中は滑りやすいWBC球を集中的に用いて慣れてきた。キャンプ中、久しぶりにNPB球を投げる機会があったが、香田投手コーチに「投げやすいですね」と話している。同コーチは「もともとNPB球の方が投げやすいわけだから、戻すのは問題ないかな」と心配していない。

 06年WBC日本代表だった久保田智之氏(現阪神プロスカウト)も経験談として「WBC球が滑らないようにするため、動きまで変えてしまうと感覚を戻すのは難しいかもしれません。でも、自分の場合はWBC用のロジンは松ヤニが少し多めになっていたので指先に付けて対応していた。再びNPB球になじむのは早いと思う」と明かした。

 要するに、周囲が心配するほど、多くのハンディキャップを背負うわけではない。WBCで投げれば投げるほど、体は仕上がっていく。長いシーズンを見据えれば、先発投手にとってジレンマにもなる。ある球界関係者は「先発は夏場以降にピークを持って行けるかが大切になる。WBCに出ると、前倒しになって、どうしても、大切な時期に合わせにくい。メジャーの日本人選手が辞退せざるをえないのは、そういう点もある」と説明。シーズン終盤に尻上がりに調子を上げるためにも、支障が少ない入り方ができるだろう。

 日本では得られない経験を求め、WBC出場を熱望した。18日カブス戦でゾブリストやヘイワードら一流と対戦した、貴重な肌感覚を生かせるか。そして、消化不良を真夏の快投にぶつけてほしい。【阪神担当=酒井俊作】