飛んだ誕生日だ。阪神和田豊監督が、53歳の誕生日を迎えたこの日、広島に逆転負け。3連敗で2位ヤクルトにゲーム差なしに迫られた。実は試合前、前代未聞の騒動が起こっていた。マウロ・ゴメス内野手(30)が練習中にグラウンド内で小型無人機ドローンを飛ばし、球団が厳重注意の処分を下していた。10年ぶり優勝を目指すチームのドタバタ劇。気合入れ直してや~!

 ほころびはプレーボールの3時間前に現れていた。曇り空の甲子園。試合に備えて練習する阪神ナインの足がピタリと止まった。打撃ケージで打っていた福留は右翼上空を見つめる。ダッシュを繰り返していた安藤ら投手陣は頭上を見上げる。ふわふわふわり…。小型無人機「ドローン」が不意に飛んできた。外野で練習を見守る平田ヘッドコーチらに至近距離で近づく。球場職員2人が慌ててやってくる。部外者のいたずらか。見たことがない光景に周囲は騒然とした。約10分間、飛行した後、右翼フェンスに直撃して落下…。その傍らではドローンを持ち込んだゴメスが事情聴取を受けていた。峯本チーム運営部長は「最初は外からやっているのかなと思っていたら、ゴメスが操作していた。練習中ですし、いろんなことで問題になっている。『すみません』と言っていました」と説明。口頭による厳重注意になった。緊迫した優勝争いを控えた準備中に遊ぶ…。勝負に向かう選手とは思えない4番の気の緩みだろう。

 球団幹部も「ドローン飛ばすなら、ボールを飛ばしてくれ…」と苦言を呈するしかない。試合でも精彩を欠いたままだった。4回2死一、三塁。岩田の一塁けん制球が高く浮き、ゴメスもバランスを崩した。その直後だ。三塁走者新井が本塁突入。一塁走者と重なって踏ん張って投げられず、ワンバウンド送球でセーフにしてしまう。タイミングはアウト。そつなく投げていれば同点を防げていた。和田監督は「試合に入れば別の話なので」と言う。確かにドローンとプレーは関係ない。だが、心にスキがあると映っても仕方がない軽率ぶりだった。

 打撃不振ぶりは深刻だ。好調の前田に手玉に取られて、この日は4打数無安打3三振。間合いを測れず、外角スライダーにバットは止まらない。指揮官は「見極めができない限り、ずっと(弱点に)投げてくる。そこ(4番)を動かすかという話ではないけど、打線はこのままではいけない」と危機感を募らせる。主砲の不調が続けば、打順降格の可能性も出てくる。チームは3連敗。2位ヤクルトにゲーム差なしの勝率3毛差に肉薄された。痛恨の失敗はグラウンドで取り返すしかない。【酒井俊作】

<ドローン関連最近の主な事件・事故>

 ◆官邸ドローン事件 放射能マークや発炎筒付きドローンを飛ばして首相官邸屋上に落下させ、業務を妨害したとして、警視庁が4月、無職男(40)を威力業務妨害などの疑いで逮捕。

 ◆ドローンが大使館に落下 民放テレビ局社員が4月、撮影のために同社敷地内で飛ばしたドローンが風にあおられ、約100メートル北の英国大使館に落下。

 ◆ドローン少年逮捕 東京・浅草神社の三社祭でドローンを飛ばすことを示唆する動画を投稿し、警備を強化させるなど、主催者の業務を妨害したとして、警視庁が5月、威力業務妨害の疑いで少年(15)を逮捕。

 ◆防衛省ドローン落下 7月22日午後、東京・市谷の防衛省でドローン対策の説明会中、飛ばしていたドローンが風にあおられ1・5キロ離れた住宅の植え込みに落下。けが人はいなかった。