2020年東京五輪・パラリンピック大会組織委員会が、主会場の新国立競技場(東京都新宿区)に隣接する神宮球場について大会前後の使用中止を要請していることが5日、分かった。野球関係者によると球場を使用する宗教法人明治神宮への要請は、20年5~11月末まで。組織委関係者はさらに長期に及ぶ可能性も示唆しており、神宮を本拠とするプロ野球ヤクルトのほか、東京6大学、東都大学、高校野球など、20年はシーズンを通して同球場で野球が開催できない可能性も出てきた。

 組織委関係者は「20年大会に使う新国立競技場の運営のため、神宮球場などを資材置き場としてお借りしたく、実務的な交渉を開始した」と述べた。

 野球関係者によるとプロアマ通じ、要請に応じた場合、実際に開催できなくなる試合数は約250試合。代替球場や明治神宮外苑への補償費などについては「まず明治神宮外苑と球団などが話し合う事項で、現段階では組織委が申し上げることではない」との認識を示した。

 組織委は3月下旬に明治神宮外苑と実務的な交渉を始めたばかりだが、以前から神宮の敷地を新国立会場の準備施設として使う試案はあった。今回の交渉には神宮球場だけでなく、第2球場やテニスコートなど神宮外苑の森、全てが含まれている。放送機材や仮設設備の建設に使う資材などが置かれる予定。

 野球界からは困惑や反発の声が続出している。ヤクルトの衣笠剛球団社長は正式な申し出はないとした上で「(球場を)分離していかざるを得ないのかもしれない。具体的な話が出れば話は聞く」と一定の理解を示した上で「神宮にはあれだけの広告を出していただいているし、年間シートを買っていただいているお客さんも何千人もいる。簡単によその球場で、というのはありえない」と語った。

 神宮を「聖地」としてきた大学野球、春夏秋の都大会を開催する高校野球なども対応を迫られる。アマチュア野球関係者からは「他の球場を確保し、(金銭面の)補償があって初めて交渉と言えるのではないか」と、組織委の姿勢に不快感を示す声も出た。

 東京都や明治神宮、日本スポーツ振興センター(JSC)は昨年4月、五輪開催を契機とした明治神宮外苑地区の再開発に向けて協力の覚書を締結。秩父宮ラグビー場を解体して大会中は駐車場などに利用し、22年度末までに新神宮球場を建設する構想を練っている。

 ◆神宮球場 1926年(大15)10月、明治神宮外苑に完成した野球場。人気が高かった東京6大学のリーグ戦が行われ、その後、東都大学のリーグ戦も実施。終戦後の45年11月にはプロ野球の東西対抗戦が開催された。61年には第2球場が建設された。東京五輪があった64年にプロ野球の国鉄(現ヤクルト)が本拠地とし、現在もヤクルトが使用している。