日本ハムが鷹の背中にピタリくっついた。守護神から先発に転向した増井浩俊投手(32)がオリックス打線を4安打1失点に抑え、6年ぶりの先発勝利を飾った。首位ソフトバンクが敗れたため、マイナス0・5ゲーム差の2位も、勝率は1厘差まで肉薄。最大11・5あったゲーム差を名目的には「逆転」し、ホームで迎える今日19日からの直接対決で、念願の首位を奪取する。

 想像できなかった世界が、目の前に広がっていた。前守護神の増井は9回、ベンチでぼんやりと考えていた。「やっと、今年初めてヒーローインタビューに立てるな」。勝利の瞬間を見届け、ベンチ前で栗山監督と固く握手。お立ち台では「今季、この景色を見えるとは思っていなかったので、うれしいです」。苦しんだ男の本音だった。

 再調整中の7月8日。1軍に呼ばれ、札幌ドームに到着すると監督室へ通された。栗山監督から「優勝するために、先発をやってくれ」。耳を疑い、即座に「無理です」と答えた。押し問答は続いたが、最後は指揮官の覚悟が胸に突き刺さった。「土下座してでも、やってもらう」。

 同10日、先発調整のため2軍本拠地の千葉・鎌ケ谷へ戻った。6年ぶりの先発転向に、煮え切らない自分もいた。不安を元守護神の武田久に打ち明けると、道しるべを示してくれた。「『やるしかねぇだろ』と。吹っ切れました」。異例のシーズン途中の配置転換に、やっと覚悟ができた。

 プロ最長の7回1/3を4安打1失点。勝負どころ以外は7割の力で投げる術を身につけた。「(常に)一生懸命投げていた時の方が結果が出なくて、楽な気持ちの時に結果が出る。新たな世界を見た感じ」と新境地を開拓。栗山監督も「先発で勝つのは違う意味がある。本当に良かった」とうなずいた。今季3度目の5連勝に導き、今日にもソフトバンクから奪首可能な舞台を整えた。「逆転優勝、行けそうな気がします」。先発・増井が大逆転Vへ、チームをさらに加速させた。【木下大輔】

 ▼パ・リーグは貯金26の日本ハムが2位で、貯金25のソフトバンクが首位。首位より貯金が多くて2位の「マイナスゲーム差」は今年の4月30日(首位ソフトバンク貯金6、2位ロッテ貯金7)にも見られるが、100試合以上消化したケースでは91年9月6日のパ・リーグ以来、25年ぶり。91年は貯金28の西武が首位、貯金29の近鉄が2位だった。シーズン大詰めで見られたのが86年10月9日のセ・リーグ。残り3試合の広島が貯金26の首位、全日程終了の巨人は貯金27の2位。広島が残り3試合を2勝1敗とし、3厘差で逃げ切り優勝した。

 ▼両チームとも最短マジックは21日。ソフトバンクは今日からの直接対決に3連勝でM29、2勝1分けでM30が点灯。日本ハムは3連勝し、19~21日にロッテが1敗か1分けを条件にM29が出る。

 ▼通算1000三振=中島(オリックス) 18日の日本ハム18回戦(札幌ドーム)の7回に記録。プロ野球61人目。初三振は西武時代の02年10月6日の日本ハム28回戦(東京ドーム)。