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  インタビュー<日曜のヒーロー>
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第370回    原田芳雄  
2003.07.13付紙面より

原田芳雄
写真=アウトロー、ワイルド、ハードボイルド。私はそんなイメージを原田さんに抱いていた。しかしその語りっぷりに初めて触れてみて、そういう横文字より「骨太」という日本語がぴったり合うんじゃないかと、思った次第です
(撮影・鈴木豊)

映画と出会い対人恐怖症に決別

 青春時代は対人恐怖症に悩まされた。原田芳雄(63)。俳優になったことでトラウマと決別し、今は「新しい出会い」「驚き」を求め続けるようになった。押しも押されもせぬ大ベテランは、若手監督や俳優との演技の応酬を楽しむため、ストイックなトレーニングを積んで、肉体とともに「反応力」を鍛え続けている。


自宅は“居酒屋”

 足取り軽くインタビュールームに入ってきた。「どうも」。肌のつやもいい。上着のジャンパー越しからでも分かるたくましい上半身。映画の撮影ではアクションだって難なくこなす。今も、自宅にサンドバッグやパンチングボールをつるし、ボクシングの練習生と同じメニューでトレーニングしていると聞いたことがある。

 「やってますよ、相変わらず。昔みたいに何が何でもがむしゃらにこなさなきゃ、という状態とは変わってきましたけど。ボクシングジムの練習生がこなすメニューを5、6ラウンドやってね。もちろん、年も取ってきましたから、年齢なりに有効なメニューも付け加えてますが、メニューは基本的に変えないんです。そうすれば、日々の調子の良しあしが分かるでしょ。調子がいまひとつだなって時はサーッと引き上げる。そうしないとかえって体に悪いからね」。

 第一線で活躍中の俳優たちで、日々トレーニングを積んでいる話はよく聞く。そのほとんどが、マシンを使うウエイトトレーニングやランニング、水泳など。いわゆる体作りがメーン。原田がボクシングにこだわるのには理由があった。

 「体作りももちろん大切でしょうが、やはりオレは“反応”が大事だと思うんですよ。俳優同士で芝居するにしたって、演出意図を理解するんだって、撮影現場ではいつどこでも、反応が大切なんです。何がどんな風に自分に迫ってくるのか。すぐ判断して反応しないとダメなんです。だから普通の反復運動だけじゃない、スピードも重視するボクシングのトレーニングはいいんですよ。だから気に入ってるんです」。

 ここ数年、撮影現場で最年長というのは珍しくなくなってきた。

 「例えば時代劇の立ち回りをやってみても、足のスタンスが昔より3分の1ぐらい狭くなっている。自分では踏ん張っているつもりなんだけどね。肉体の運動の面から言えばできなくなることも増えていくだろうけど、できなくなってきたからこそ、できることが見つかるような気がするんです。何か違う見せ方はないのかとね」。

 言葉の感覚や人間関係などの感覚が違う若手俳優から、思わぬ演技の“パンチ”を食らうこともある。

 「そんな時は、打たれちゃえばいいんです。その後こちらも返す。違いを認め合うと、面白いことができる。思わぬエネルギーが生じる。それが楽しくて撮影現場に行っているようなもの。そういうセッションが楽しめるように自分を整えておかないとね」。

 パンチの応酬を楽しんだ若手監督や俳優たちに慕われ、自宅は連日、居酒屋のようなにぎわいだという。

 「何でなんでしょうかねえ(笑い)。仕事が一段落すると集まってくる。夜中だって、『まだ、やってますか?』って連絡が来る。うちは大抵の種類の酒があるから、まるで居酒屋ですよ(笑い)」。


龍平と感慨共演

原田芳雄

 19日公開の映画「ナイン・ソウルズ」(豊田利晃監督)で、運命的な出会いがあった。かつて兄のように慕われた松田優作さん(享年39)の長男で俳優の松田龍平(20)と初めて共演した。もちろん龍平のことは幼いころから知っていた。亡き親友の忘れ形見。何かを感じずにはいられなかった。

 「こういう日が来たんだなあと。龍平が、4年前に『御法度』でデビューして、その年の映画賞の表彰で、同じステージに立ったことがありました。あいつは隅っこの方にいてね。感慨があったね。それがこうして同じカメラの前で一緒にやるなんて、ないことはないと思っていたけど、こんなにすぐにそれが来るなんて思わなかった。やはり運命を感じるね」。

 映画は脱獄した9人の男が、互いに反目しながらも行動を共にするうちに仲間意識が芽生え、やがてそれぞれの思いをかなえようと必死にもがいていく姿を描いている。原田は息子殺しの父親。龍平は父親殺し。合わせ鏡のような関係だ。田んぼで泥まみれになりながら、取っ組み合いするシーンも登場する。全身真っ黒になった2人が、こん棒を持って追いかけ合い、殴る、そして蹴り上げる。

 「バカでしょ、俳優って(笑い)。それにしてもひどいことさせるよねえ、映画って(笑い)」。

 龍平が殴りかかってから2人がへたり込むまでの約2分間、カメラは1度もカット割りすることなく、1シーンを撮りきった。原田も「殺せ!」と怒鳴りつけながら、へとへとになるまで激しく動いた。

 「あれはもう芝居じゃなくてドキュメンタリー。もう動きはぐちゃぐちゃになって、動きはアドリブになっていく。龍平もどんどんカッカしてくるしね(笑い)。あいつはカットがかかると、静かにしている方なのに、その時はもうクールダウンできなくて、終わった後も興奮してしゃべりっぱなしですよ」。

 龍平を見ているうちに、自分や優作さんのデビュー時がオーバーラップするという。

 「今はものすごく加速がついている時期だろうから、小さな石につまずいても勢いで乗り切ってほしい。加速しているから、前のめりに頭から倒れるけど、そのまま突っ走っていけばいい。どんどんクソ生意気にエゴイスティックにやっていけばいい。それにしても背中の曲がり方、長い手足を持て余し、その手足をたたむように寄りかかる姿なんて、優作にそっくり。あいつ(優作さん)には、やっぱり似ているよって言ってやりたいね」。


本名にドキッと

 今も「俳優」でいる自分に違和感を持っている。俳優になったのは、いわば対人恐怖症のリハビリだったという。日本人形作りの職人だった父親が、戦争によって道具を失い、生活は苦しくなった。

 「おやじは手足である道具をもがれ、女たちは泣きっぱなし。周りを見ると、生き延びようと、それぞれエゴ丸出しで、時に暴力的になる。小学生だったけど、もうここから出たい、そう思ってました。そういうものが徐々に積み重なって、高校に上がったころは、人間と付き合うのが怖かった。大人だとか子供だとか、男だとか女だとか関係なくね」。

 対人恐怖症に陥った原田少年は、山岳部に入った。

 「逃げ込んだのが山だった。解放感は味わった」。

 山を通じて知り合った男と山小屋を経営しようとしたが、その男が山小屋同士のもめ事に巻き込まれ、話はなくなった。俳優座を受けようとした友人が、直前まで迷っていたのを見て、願書を奪って自分が受験した。試験前日に胃けいれんを起こしながらも、何とか合格した。

 「うそっぱちの世界に逃げ込もうとしたんですよ。役といううその世界に入ると、少しは手足が動かせたり、生の声を上げたりできた。どうしようもない自分にとって、驚きだった。そのへんは、今でも基本的に変わってないですよ。映画といううそっぱちの世界にいると、役によって入れ替わりが自由で楽しい。そんなことやっていて、ほどほどにメシ食えて酒も飲める。申し訳ないよね」。

 新聞などに「原田芳雄」と書かれていると「ドキッとする」という。

 「人間を嫌いだったころからこの名前でしょ。今までの人生が、米の中のはい芽のように詰まっているわけですから、役名ではない自分の名前を見ると、何だこりゃと驚いてしまうんです。芸名にしときゃよかったね」。

 俳優座を飛び出し、映画界に活動の場を求め、藤田敏八、黒木和雄、鈴木清順らそうそうたる監督とコンビを組み、キャリアを重ねた。数々の映画賞も獲得。今や日本映画界に欠かせぬ存在となった。

 「俳優としての原動力? ものを知らないから、映画を通して、いろんなものと出くわしたいからかな。自分じゃ絶対思いつかないことと出会える。いろんな才能が集まってくるし、ワクワクするじゃない。本当に他力本願だよな(笑い)。たかが知れてるもん、自分の才能なんて。だいたい、自分のカテゴリーの中だけで生きていると、面白いこと、おかしいこと、訳分からないことに出会わない。驚きがない。飽きちゃうよ。だれも見たことのない映画って、きっとあるはずだろうし、自分がこれからどれだけできるか分からないけど、そういうものに出会いたい」。

 「驚きたい」。その言葉通り、昨年から今年にかけて、30代の若手監督たちと3本もコンビを組んだ。主演は窪塚洋介、上戸彩、そして松田龍平。これから、どんな新しい才能と向かい合っていくのだろうか。


台本真っ赤に“酔いました”

 「ナイン・ソウルズ」の豊田利晃監督 うまい酒の飲み方を知っている人です。一番うまい酒は、映画でギリギリまでいったあとに飲む酒だと思います。僕も酒は嫌いじゃないので付き合わさせてもらいました。クランクイン前の衣装合わせの時、芳雄さんの台本はすでに赤鉛筆で文字が書き込まれていて、真っ赤でした。その意気込みに乗ってあらゆる手を使って、無謀な注文を繰り返しましたが、さらにそれを上回る返しをしてきて、おかげで僕は相当酔っぱらいました。芳雄さん、うまい酒、ごちそうさまでした。


 ◆「ナイン・ソウルズ」 9人の刑務所脱走者を原田芳雄、松田龍平、千原浩史、鬼丸、板尾創路、KEE、マメ山田、鈴木卓爾、大楽源太が演じるほか、松たか子、伊藤美咲、京野ことみ、鈴木杏ら大物が特別出演


 ◆原田芳雄(はらだ・よしお) 本名同じ。1940年(昭和15年)2月29日、東京生まれ。高校中退後、63年に俳優座養成所入り。68年「復讐の歌が聞こえる」で映画デビュー。71年に俳優座を退団。76年「祭りの準備」「田園に死す」でブルーリボン助演男優賞、89年「どついたるねん」で映画各賞を受賞。90年「浪人街」「われ撃つ用意あり」と92年「寝盗られ宗介」でいずれも日刊スポーツ映画大賞主演男優賞。これまでに「竜馬暗殺」「ツィゴイネルワイゼン」「陽炎座」など数多くの話題作に出演。03年に紫綬褒章を受章。175センチ。A型。


(取材・松田秀彦)

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