ひねりの極意は、直前のバック転にあった。白井健三(19=日体大)が金メダルを目指す体操男子種目別床運動は14日午後2時(日本時間15日午前2時)にスタート。「4回ひねり」を映像分析した新潟大の五十嵐久人教授(65)のチームは、その特徴として<1>バック転のスピード<2>ひねり開始の早さ<3>蹴り出しの角度、を挙げた。「ひねり王子」の大技には、常識では考えられない驚くべき秘密が隠されていた。

 五十嵐氏は白井の「ひねり」を「すごいですね」と評した。自身も体操選手として活躍し、76年モントリオール五輪団体で金メダルを獲得した名手だったからこそ、そのすごさが分かる。白井の技に着目し、論文にまとめたのは新潟大の学生たち。担当教官として指導した同氏は、驚異的な技を生み出す源として、直前のバック転を注目した。

 <1>バック転のスピード

 最初に特徴的なのは、手をつくタイミングが違うことです。普通は倒立状態になる前ですが、白井君は倒立が過ぎてから。「タン、タンッ」ではなく「タタン」という感じ。バック転のスピードが速くなるから、ジャンプする際にもらえるモーメント(回転する力の大きさ)も大きくなる。これが1つ目のポイントです。

 <2>早いひねり始め

 2つ目はバック転の倒立時、着手の時に右手が前に出ていることです。普通ならば体と平行につきますが、明らかに左手に比べて右手が出ています。右手を前に出すことによって体は逆方向にひねる形になる。つまり、白井君のひねりは、バック転の着手から始まっているということです。

 <3>蹴り出しの角度

 最も特徴的なのは、体が倒れた状態で蹴り出すこと。4回転では、床面との角度は約45度しかありません。一般的な選手なら60度くらい。白井君は1回ひねりが54・2度、2回は53度、3回は50・6度、そして4回は44度です。体が立った状態では、左右を軸とした縦回転のモーメントが強く残りやすい。これを抑えて、上下を軸としたひねりを生み出す横回転のモーメントに変えるために、体が倒れた状態で蹴り出すのです。ただ、アキレス腱(けん)や膝への負担が大きく、普通の選手では無理。白井君にしかできない蹴り出しです。

 五十嵐氏は「ジャンプの高さはどんな回転でも変わらない。1・1秒という滞空時間も一緒です」と話した。だからこそ、大切なのは技に入る前のバック転だという。白井自身も「バック転で大切。ここで技の8割が決まる」と重視。エース内村に「むやみやたらにひねる」と称された白井の武器を支えるのは、誰もまねのできない「バック転」だった。【荻島弘一】

 ◆五十嵐久人(いがらし・ひさと)1951年(昭26)2月19日、宇都宮市生まれ。作新学院-日大。76年モントリオール五輪は僅差で代表を逃したが、補欠として同行。エース笠松茂が虫垂炎で離脱し、急きょ出場した。団体決勝の鉄棒では世界で初めて「後方伸身2回宙返り」に成功。団体5連覇に貢献した。五輪後に米留学し、帰国後に新潟大講師(現在は教授)。国際大学スポーツ連盟の理事も務めている。

 ◆白井健三(しらい・けんぞう)1996年(平8)8月24日、横浜市生まれ。3歳から体操を始める。神奈川・岸根高1年の12年にアジア選手権の種目別床運動で優勝。13年には、初出場した世界選手権同種目で男子史上最年少となる17歳1カ月で金メダル。15年に日体大に進み、同年の世界選手権で2度目の優勝。リオ五輪で団体金メダル。163センチ、54キロ。