イラン・テヘランにあるアザディスタジアムには、独特の雰囲気が漂っていた。ピッチと陸上トラックを取り囲むスタンドは高くそびえ立ち、バックスタンドの一番上には2枚の肖像画が置かれている。「10万人収容」をうたい文句にするだけあって、ピッチレベルに立つと迫力満点。10月13日に行われたイラン日本戦は、親善試合とあって満席とはいかなかったが、メーンスタンドとバックスタンドの1階席はほぼ埋め尽くされただけでも、アウェー感は十分だった。

 そんなアザディスタジアムが、近い将来生まれ変わるかもしれない。

 イラン在住のサッカー関係者によると、建て替えの計画があり、その際には「女性専用スタンド」を設置するプランが浮上しているという。同関係者は「イランで女性が観戦することはない。(イスラム教)宗教的に禁止されているわけではないけど、女性が立ち入る場所ではないとされている。汚い言葉が飛び交うし、入れば危険。敷地内にさえ入ることはできない」。そんなお国柄だから、専用スタンドがなければ観戦することは不可能だということだ。

 イランでは米国、欧州から科せられている経済制裁の影響で、クレジットカードは使えない。すべて現金のみ。その制裁が解かれ次第、建て替え行う準備をしているという。実際に同スタジアムの老朽化は著しい。日本戦で、シーティングされていない石畳の2階席はすべて立ち入り禁止となっていた。

 現在、FIFAランキングではアジア最高位(39位)にいるイランとは、最終予選で対戦する可能性がある。来年9月から約1年かけて行われる最終予選の間に、完成するのかは不明。しかし、野太い声に黄色い声援が加わったイランは、さらに手ごわい敵になるかもしれない。【栗田成芳】


 ◆栗田成芳(くりた・しげよし)1981年(昭56)12月24日生まれ。サッカーに熱中し、愛知・熱田高-筑波大を経て、04年にドイツへ渡って4部リーグでプレー。07年入社後、スポーツ部に配属。静岡支局を経てスポーツ部に帰任。今季J担当クラブは東京と甲府。昨夏のブラジル大会でW杯初取材。10月に代表戦取材に訪れたイラン・テヘランで、湿度10%台、標高約1200メートルの環境下、無謀にもランニングを行い、喉の渇きと低酸素で倒れそうになる。