今季の新潟の試合で印象深かったのが、最後の公式戦になった天皇杯4回戦(12日・日産スタジアム)の横浜戦だ。

 試合終了間際に横浜MF天野純(25)にFKを直接決められ、0-1で敗退した。ただ、前線からプレスをかけ続け、試合終了まで足を止めない自分たちのスタイルを出し切った。リーグ戦は15位で残留。しかも成績はクラブワーストの8勝6分け20敗。最悪のシーズンの最後に、新潟が貫くべき姿を示した。

 そんな内容の中で、最も「新潟らしさ」を披露した1人がFW田中達也(33)だった。74分間の出場で3本のシュート。守備ではボールを持った相手を最前線からしつこく追い回した。かつて浦和の顔として日本代表にも名を連ねたベテラン。13年に新潟に移籍し、今季が4年目になる。新潟のサッカーが染み込んでいることを、しっかりと見せつけた。

 「新潟は僕を拾ってくれたクラブ。だからJ1に残るために全力を尽くす」。シーズン終盤の残留争いの最中、田中は決意をこう話していた。練習中、周囲の緩慢なプレーに対して厳しく叱責(しっせき)する。同時に、それ以上に厳しく自分自身を追い込む。一切手抜きをしない姿は、チームメートに影響を与え続けた。それが横浜戦の試合内容にも反映されていた。

 ピッチを離れれば、すべての人に礼儀正しく接し、後輩選手たちには、いじられるほど気さくに接する人間性の持ち主。だからこそ、クラブは戦力としてだけでなく、手本として田中の存在を高く評価する。

 「チームが勝つために」。田中は純粋にそこに徹している。その結果、「新潟らしさ」の象徴的な存在になった。苦しいシーズンだったからこそ、田中の姿は「新潟の魂」に触れたいと思う人たちの、よりどころにもなっていた。

 新潟は来季、待ったなしで低迷脱出を図らなければならない。そのためには、田中と同じように新潟スタイルを身につけた選手が複数、現れることが必須になる。【斎藤慎一郎】


 ◆斎藤慎一郎(さいとう・しんいちろう)1967年(昭42)1月12日、新潟県出身。15年9月から新潟版を担当。新潟はJ2時代から取材。サッカー以外にはBリーグ、Wリーグのバスケットボール、高校スポーツなど担当。