日本代表バヒド・ハリルホジッチ監督(64)が大ばくちともいえる起用で、決戦を制した。日本(FIFAランク51位)はW杯アジア最終予選でサウジアラビア(同54位)を2-1で下し、首位サウジと勝ち点10で並び、B組2位に浮上した。絶対的な存在のFW本田圭佑(30=ACミラン)を先発から外し、国際Aマッチ初先発のFW久保裕也(22=ヤングボーイズ)を起用。ロシア行きを左右する一戦で思い切って動き、16年最終戦を勝利で飾った。

 勝った。すぐにベンチ前にハリルホジッチ監督を中心にした輪ができた。指揮官は大勝負に出て、勝利をもぎ取った。最終予選折り返しの第5戦を終え、勝ち点は10。首位サウジアラビアをたたいてから約1時間半後、オーストラリアがタイと引き分けたため、自動的に本大会出場権を獲得する2位に浮上した。

 「より良い選手を、ちゅうちょなくプレーさせた」。本田、香川を先発から外した。岡崎も。3トップには左から原口、大迫、久保を並べてスタート。久保は国際Aマッチ初先発の22歳。賭けともいえる采配を実らせた。

 「相手は美しいチームだったが、それでも日本が勝った。エクセレント(素晴らしい)とまでは言えないが、よい試合をした。もう少し点を取れたし、失点なしで終わりたかった。ただ、大きな勝利だった」

 前半は特に、奪ってから縦に速く攻めた。結局ボール支配率で日本は44・7%と相手を下回った。それでもシュートは16本対5本。狙い通りの展開に持ち込んだ。最後に失点さえしなければ、得失点差でサウジを上回り首位浮上もあった。

 一丸だった。「このチームの強みは組織。そして精神力だ。全員をリスペクト(尊重)しているが、スター選手は(誰かではなく)チームだと私は言っている」。本田は開始前に、控室からピッチにつながる階段で決戦に向かう選手を1人1人、力強く激励し送り出した。前半10分には接触プレーを巡り、小競り合いが起きた。指揮官が興奮してピッチに足を踏み入れ、慌てて早川コーチに引き戻された。ハーフタイムにも相手と一触即発の場面があった。そこにも指揮官がいた。ピッチ外でも戦った。

 後半には本田、香川、岡崎を順に投入。「もちろん彼らを信頼している」。まるで順番を決めていたかのように「ジョーカー(切り札)」と位置付けていたカードを切った。決断し、大きな大きな勝利をもぎ取った。そして、いつものハリル節が戻った。「選手には伝えた。先発を奪うこと、先発できるクラブに行きなさいと」。いつ、どんな時でも言わずにはいられない。「私は、かなり自分に厳しい男だ」。先頭に立って勝利をもぎ取ったハリルホジッチ監督は、16年最終戦を白星で飾っても表情を引き締めたままだった。険しいロシアへの道のりはまだ、折り返し地点だ。【八反誠】