<ロンドン五輪アジア最終予選:日本1-1北朝鮮>◇8日◇中国・山東スポーツセンター

 【済南(中国)=鎌田直秀】なでしこジャパンをロンドン五輪に導いたのは、おしゃれ番長ことFW川澄奈穂美(25=INAC)だ。4戦すべてに先発出場を果たしタイ戦、オーストラリア戦でいずれも決勝点を決めるMVP級の活躍。この日、北朝鮮戦でも驚異のスタミナとスピードでチームをけん引。MF沢にあこがれ、背中を追い続けた川澄がたくましく成長し、輝きを放った。

 川澄が最後まで縦横無尽に走り抜き、ロンドン切符を手に入れた。4戦連続して2トップの一角で先発出場。強いプレスを掛けてくる北朝鮮にてこずり、日本らしいリズムがなかなか生まれない。前半終了間際には右サイドのFW大野とポジションチェンジし、後半にFW安藤が投入されてもポジションが戻ることはなかった。慣れない位置でのプレーだったが、それでも懸命に走った。

 オーストラリア戦に続いての2戦連発、3ゴール目とはならなかったが、ピッチでの川澄の存在感は光った。何度もドリブル突破をしかけ、チャンスメーク。守備でも最後列まで下がって献身的に食らいついた。試合後は「結果は結果。仕方ない。切り替えるしかない。私はもう切り替えています」ときっぱり言い放った。まだ1試合を残すが、今大会はMVP級の活躍だった。

 そのルックスからは想像もできない驚異のスタミナの持ち主だ。持久力を測るシャトルランではほぼ毎回、最後の1人になるまで生き残る。沢でさえ「あのスタミナは半端じゃない。私なんか全然かなわないですよ」と舌を巻くほど。

 持久力を養った裏にはケガがあった。日体大4年の時、左膝前十字靱帯(じんたい)断裂の大ケガを負った。全治8カ月。手術を経てようやくグラウンドに出られるようになった川澄は、ひたすらランニングで汗を流した。当時の監督・芦原正紀氏(67=神奈川県サッカー協会女子委員長)によると「とにかく黙々と、黙々と走り続けるんです。その姿は今思い出しても感動するぐらい」。

 スタミナの源泉は気持ちの強さにある。高校時代にプレーした大和シルフィードの佐藤浩二監督が述懐する。「1度、具合が悪いといって練習に来ましたが、グラウンドの脇で嘔吐(おうと)しながら練習に参加していました」。

 わずか2カ月前。W杯準決勝・スウェーデン戦で2ゴールを決めるまで、川澄は控えだった。それでも常に世界レベルに憧れた。お気に入りのピアスはずっと前から、右が飛行機で左が地球という斬新なデザインだ。これは「常に世界を意識したい」という思いから海外遠征では必ず身につけるという逸品。今はもう、世界レベルもただの憧れではない。

 「W杯は優勝できましたけど、オリンピックではまだメダルを取ってないですし、目標はもう次に変わっています」。川澄は大きな目でもう前を向いている。