新潟の3度目のタイトル挑戦は実らなかった。2年ぶり3度目の決勝進出で、すべてINAC神戸に日本一の夢を阻まれてきたが、今回も敗れた。現役最後の試合になったMF澤穂希(37)に後半33分、右CKから頭で決められた。新潟は、日本女子サッカー界のレジェンドに絶好の見せ場を作られてしまった。

 相手の花道を、お膳立てしてしまった。新潟は、引退する澤の引き立て役を演じる格好になった。試合終了を告げるホイッスルが鳴ると、神戸の選手たちはピッチ中央で歓喜を爆発させた。脇役に押しやられた新潟のメンバーは、相手のお祭り騒ぎを見向きもしなかかった。

 一発のセットプレーにやられた。しかも、決めたのは澤だ。「1本で勝負が決まるのは悔しい」と話した主将のMF上尾野辺めぐみ(29)は「(澤は)怖い選手だとあらためて感じた」と言った。

 決勝前にイメージされていた大方のメーンテーマが澤穂希の引退ゲームなら、脇役に押しやられた新潟のテーマはリベンジだった。11年、13年の決勝は、ことごとく神戸に敗れていた。しかも、新潟の能仲太司監督(37)は今季限りで退任する。新潟にとっても、大事なゲームだったが、初タイトルは遠かった。

 「大一番で決めるのは澤選手のすごさ」。能仲監督は、なでしこジャパンのテクニカルスタッフとして2011年FIFA女子ワールドカップで優勝など、澤とは一緒に戦った仲だった。

 ゲームは新潟が主導していた。シュート数8は相手を1本上回った。後半に限れば、許したシュートは澤の2本だけだった。「アクションするサッカー。全員でハードワークするサッカーは表現できた。辞めるのが寂しい気持ちになるようなチーム」と能仲監督は、選手の奮闘を褒めた。上尾野辺も「自分たちのやりたいことができた」と言った。

 それでも、日本一に手が届かなかった。「チャンスを作り出した中で、最後に決める質の部分が足りない」と能仲監督は、選手たちに惜別の言葉を贈った。もちろん、3度まで涙をのんだ選手たちにも十分分かっていた。「決定力。ゴール前のアイデアを増やせば(チームは)面白くなる」。そう話した上尾野辺の目は、死んでいなかった。【涌井幹雄】