熊本市出身でJ2岡山のU-23(23歳以下)日本代表FW豊川雄太(21)が後半29分から出場した。ゴールこそならなかったが、リオデジャネイロ五輪メンバー入りを誓い、「熊本県の皆さんに元気を与えたい」と語った。

 試合開始前、熊本地震の被害者を悼んで、黙とうがささげられた。約30秒…。豊川は手を前に組み、目を閉じた。「熊本がぐちゃぐちゃになっている」。変わり果てた地元の風景が、脳裏をよぎった。

 スタートはベンチだった。だが「点を取って熊本を勇気づけたい」と心に決めていた。前半33分からベンチメンバーと体を動かし始めた。後半29分、出番が来た。前線で走り回り、DFにしつこく、プレッシャーをかけた。ゴールに貪欲に迫り、ミドルシュートも2本放った。

 14日夜、岡山市内の自宅で地震のニュースを見て、がくぜんとした。実家は熊本市で、震度7を観測した益城町から自転車で約10分。「ただ信じられなかった」。昔、サッカーの試合に行くため、何度も通った道に大きな亀裂が入っている。なじみの神社や橋が壊れている。家には両親と弟がいた。すぐに父実(51)さんに電話したが、つながらない。「サッカーをしてていいのかな」。最悪の事態も頭をよぎった。

 その後、父と連絡がとれ、家族の無事が確認できた。実家は倒壊こそ免れたが、家具は倒れ、食器も散乱している状況を知った。励まそうと思ったが、逆に実さんから「家族は無事。サッカーに集中しなさい」と励まされた。「サッカーができる幸せを感じました」。

 まだ余震も続いている。厳しい避難生活を余儀なくされている人もいる。「できれば早く熊本に帰って、何か自分にできることがあればやりたい」と言う。

 同時に決心もしている。「家族、親戚、熊本県の皆さんに元気を与えたい。オリンピックのメンバーに入って、熊本出身の人がいると思ってくれればいい。アジアの予選の時みたいに盛り上がってくれれば」。まずはサッカーで活躍することが自分にできること。それが熊本に元気を届けることにつながると信じている。