プレーバック日刊スポーツ! 過去の10月28日付紙面を振り返ります。2001年の最終面(東京版)は、横浜のナビスコ杯初Vでした。

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<ナビスコ杯:横浜0(3PK1)0磐田>◇決勝◇2001年10月28日◇国立

 Jリーグで降格危機にあえぎ、川口も去った横浜が、「新守護神」GK榎本達也(22)の神がかり的セーブで、リーグ第1ステージ(S)覇者の磐田を下し、初優勝を果たした。0―0で迎えたPK戦で、榎本が磐田のシュートを3本止め、チームに賞金1億円をもたらした。日本代表GK川口能活(26)のポーツマス(イングランド1部リーグ)移籍でチャンスを得た22歳は、MVPも獲得。第2S残り5試合の残留レースに希望の光をともした。

 DF小村がゴールネットを揺らすと、榎本の4度目の雄たけびがとどろいた。チームメートがダッシュして向かってきた。「エノ〜。ウォー」。中村、松田、城…。次々と声にならない声が近づいてくる。190センチの長身はそれをしっかり受け止め、もみくちゃにされた。

 「神がかり」。1週間前、川口が横浜の左伴繁雄社長から別れの記念に贈られた言葉を、後継者の榎本が体現した。前日のPK練習では1本しか止められなかった男が、この日は4本すべて反応し、3本をファインセーブ。先頭の藤田には逆をつかれたが、空中でとっさに左足を突き出してゴールマウスからはじき出した。ジヴコヴィッチ、前田のキックは「蹴る間際まで動かず、最後は試合中につかんだクセで読んで」止めた。「特にジヴコはサイドキックで流し込むと予想した通りだった」と最後まで冷静そのものだった。

 苦節の5年間だった。97年、高校で実績のない榎本は月給20万円でスタートした。最初はあこがれだけだったが、年を重ねるごとに川口という壁の大きさを痛感した。「チャンスをください」。訴えたのは1度ではない。昨年12月には、福岡への移籍も決まりかけた。くさっていた榎本に声をかけたのは、彼をプロの世界に引き入れた田中利一スカウトだった。「報われるか報われないかは自分次第なんだ。大切なのは力を蓄えること。見る人は見てるぞ」。

 言葉通り、川口の移籍でチャンスは訪れた。同期の中村との居残り練習でセーブ力を高め、キックの精度も「背番号1」と肩を並べた。フロントが川口を送り出したのも「榎本が成長した」から。期待にこたえるように、榎本はこの日、金髪を黒髪に戻し、そして、結果を出した。

 試合後、MVPを手にすると昨年8月12日、自身が公式戦初スタメンを飾った磐田戦を振り返った。「何もできずに0-4でしたよね」。つかんだ自信は大きい。「今日が僕にとってのスタート。この優勝を能活さんの耳に届けたい。そして、今季のJ残り5試合も抑えたい」。たくましい笑顔を見つめ、田中スカウトは目をうるませていた。

 ◆10人で守りきる

 横浜が泥臭く、泥臭く守り切った。後半41分にMF永山の退場で10人になると、3-5-2から4-3-2にシステムを変更し、司令塔の中村をボランチに下げてまで守りに徹した。最終ラインでは松田と波戸の日本代表コンビが、体を投げ出して中山ら磐田FW陣を抑えた。左サイドのドゥトラはMVP級の活躍で磐田の右サイドからの攻撃を封じ込めた。

 「ポジションがどうとかじゃなくガムシャラにやるしかなかった」(中村)、「自分が退場して優勝した試合(昨年第1Sの市原戦)もあったし、逆に集中力が増すこともある」(松田)。不利な状況にうつむかず、前向きに守り、そして勝った。PK戦では、だれよりも走り回った両サイドバックの波戸とドゥトラが失敗した。足がいうことをきかなくなるほどに、試合中の守備に力を使っていた。

 大会を通じて失点1での優勝は94年V川崎(現東京V)以来。ただし、当時のV川崎は3試合、今回の横浜は9試合。事実上の大会記録の陰には、チーム全体の守備があった。 

◆祝勝会は自粛

 横浜は賞金1億円を獲得したが、選手は祝勝会を自粛した。試合後は宿舎のホテルで食事し、そのままバスで横浜へ戻り解散した。残ったスタッフがささやかなパーティーを開いたが、「31日にはJリーグがあるし、J1残留に向けて、うかれてられない」と関係者は口をそろえていた。

◆Jリーグ記録室

 ▼横浜がカップ戦に強い伝統を見せつけた。前身の日産自動車時代からのカップ戦優勝はこれで10となり、1位の東京V(読売クラブ時代含む)に並んだ。内訳は、横浜が天皇杯6、JSL杯3、ナビスコ杯1。東京Vが天皇杯4、JSL杯3、ナビスコ杯3。

 ▼横浜がナビスコ杯2回戦の福岡戦から7試合連続無失点。過去、ナビスコ杯の連続試合無失点は4試合が最多(3チーム)で、リーグ戦では93年清水と96年横浜Fの6試合が最多。横浜がリーグ戦でも記録されていない7試合連続無失点をマークしてナビスコ杯に初優勝した。今大会の横浜の失点は1失点だけ。ナビスコ杯では94年V川崎(3勝0敗)に並ぶ最少失点での優勝となった。

※記録や表記は当時のもの