一条(奈良)は終了間際に追いつく粘りを見せたがPK戦で力尽きた。県勢では94年度大会以来、同校としては初となる8強進出はならなかった。

 1-2で迎えた終了間際の後半39分、土壇場で追いついた。右CKからゴール前での蹴り合いとなった。ゴールライン上で体を張るDFに何度もシュートを阻まれたが、最後はMF加茂裕輝(3年)が左へ押し込み、この日2点目。スタンドは割れるような歓声に包まれた。

 PK戦に向かう雰囲気は、追いつかれた佐野日大イレブンとは対象的。円陣を作って「オシッ!」と5回声を張り上げ、気合充分で臨んだ。先攻で1人目のDF稲葉大典(3年)が成功した。GK本山善敏(3年)が相手の1人目をストップすると、逆転勝利の予感が漂った。

 ただ、その後は2度の同点ゴールを決めた加茂を含めて2人が失敗。3-3で、佐野日大の5人目を迎えた。コースを読んだ本山が伸ばした手の先をボールが抜け、勝負は決した。センターサークルで膝から崩れる教え子たちを、前田久監督はベンチから直立不動で見つめていた。「どの選手も、いないとここまで来られなかった場面があった。(PKの)失敗はまったく気にならない」。勝利目前まで迫ったイレブンを誇った。

 試合後のロッカールーム。前田監督は失意の選手たちに言った。「これが人生のピークじゃないぞ」。生徒は全員、受験で入学した。推薦の選手はいない。人工芝の練習場もない。授業後に土のグラウンドを走り、ここまで勝ち進んだ。環境に恵まれなくても戦えることを証明した。「努力を重ねれば、何かが起こる。この負けをスタートにしてほしい。足りなかったものを、ここから埋めにいってほしい」。一条イレブンは、努力で全国舞台の3回戦まで登った。指揮官は最後に、それを伝えたかった。

 同点の瞬間、前田監督はベンチで両手を突き上げていた。「燃えました。(選手は)本気で、絶対負けたくないという気持ちでやっていた。青春ですよね。やり切りました。選手にはありがとうとしか言えません。2年生が(悔しさを)持っていてくれるかな。また、ここに戻ってこられたら」。さわやかな笑顔の指揮官とともに一条がスタジアムを去った。【岡崎悠利】