<J1:鹿島4-0札幌>◇第1節◇8日◇カシマ

 鹿島DF伊野波雅彦(22)が王者の新しい力となった。開幕戦の札幌戦で先発出場。岩政、大岩の両センターバック(CB)を出場停止で欠く中、中後とのコンビで最終ラインを統率し、相手の攻撃を封じた。積極的なオーバーラップでリズムを生み、大量4得点の呼び水となり、完封勝利に貢献した。オフに少年時代からあこがれていた鹿島に移籍。「鹿島デビュー戦」を飾り、チームは昨年の劇的優勝から続く連勝を10に伸ばした。

 伊野波は少年時代からの夢を最高の形でかなえた。鹿島の一員としてプレーする―。22歳の若者に成長した男は真っ赤のユニホームに身をつつみ、ピッチに立った。前半こそ動きが硬かったが、後半は見違えた。同18分にはハーフウエーラインより前で構えて、札幌MF芳賀にタックルを仕掛けて奪い取る。攻撃的な姿勢が勢いを呼び、後半だけで4得点が生まれた。

 オフに東京から完全移籍し臨んだ初戦。「(鹿島に)受け入れられた感じ。すんなり入れた」。子供のころから鹿島が大好きだった。地元宮崎に春季キャンプで鹿島が訪れると、練習を見学し、柳沢、小笠原らと一緒に写真を撮った。中学時代には貯金を切り崩し、約40万円を払って鹿島OBのジーコが主宰するブラジルのサッカー教室に参加した。鹿児島実時代も地元に帰省すると鹿島のユニホームを着てトレーニングすることもあった。プロ入り後も東京の寮には小笠原のユニホームを飾っていた。

 試合2日前には本田チームアドバイザーに「もっと満男を使ってやれ。遠慮するな」と声をかけられた。この日はあこがれだった小笠原に指示を飛ばす姿があった。U―23代表の米国遠征に帯同し、チームと連係を深める時間は少なかった。1日のゼロックス杯で岩政、大岩が退場となり、出場停止が決まってから「この1週間で頭に詰め込まないと」と焦りもあった。だが昔から持っている鹿島の試合のビデオは100本以上。伝統のスタイルは心身にすり込まれていた。

 オリベイラ監督からは「まだ君のプレーをあまり見てない」と言われていたが、この日のプレーで存在感を示した。「鹿島の一員になれた?

 まだ半分くらい。これから一員になれれば」。鹿島とともに歩む王道は始まったばかりだ。【広重竜太郎】