<J1:仙台1-0浦和>◇第8節◇29日◇ユアスタ

 これが東北の底力だ!

 東日本大震災から50日。待ちに待ったホーム開幕戦で、仙台が被災地に勝利を届けた。過去11戦未勝利だった浦和を撃破。前半40分、MF梁勇基(29)の右クロスをMF太田吉彰(27)が頭で合わせ、2戦連続ゴールで勝利をもたらした。これで震災後2連勝で単独2位浮上。1万8456人の大観衆の声援にも押され、本拠地で復興への第1歩をしるした。

 歓声が仙台の空に鳴り響いた。被災地で勝った。使えない照明。午後4時、薄暗いスタジアムでも選手、サポーターの笑顔がはじけ飛んだ。

 仙台の、東北への思いがボールに乗り移った。前半40分。相手陣右サイド深くでMF梁が浦和DFと交錯。ボールは浦和ゴールライン目がけ大きくはじかれる。だが出ない。神がかったバックスピンが掛かり、梁の足元へ。ラインを割ると判断した浦和DFは追ってこない。フリーで正確なクロスを上げた。それをMF太田が頭で決めた。

 前節川崎F戦に続く連続ゴール。ヘディングゴールは通算23点中2点目だった。「負けたら見に来てくれた人、見に来られなかった東北の人が、がっかりする」。過去11戦で3分け8敗だった苦手浦和を相手に勝利だけを追い求めた。

 前節から急性胃腸炎で苦しんできたMF関口も、下痢止めを飲み2戦連続でフル出場した。前日、震災で亡くなった方の四十九日法要が行われ「苦しんでいる人がたくさんいる。でも必ず希望の光はあるはず」。ピッチの外でも気仙沼市や南三陸町でのパブリックビューイング開催へ向け、「自費を払ってもいい」との決意で取り組んでいる。

 3月11日。ホーム開幕など想像もつかなかった。同28日、チーム再始動の場所に被害の大きかった石巻市を選んだ。屈託のない笑顔で男子中学生がFW柳沢主将に接してきた。ふざけ合った最後に「家は大丈夫?」と聞くと少年は淡々と「船が家に突き刺さっちゃった」。つらすぎる現実に言葉を失った。柳沢はこの日、12日に受けた左膝手術のためリハビリ中だが募金活動に立ち上がった。

 ピッチに立てなかった選手も含め、「復興へ」の思いをひとつにしてつかんだ勝利だった。楽天との同時勝利に手倉森監督は「Kスタとユアスタでパワーを送れた。街を取り戻せるまで続けられたらと思う」。復興への希望の光が、さらに強くなった。【三須一紀】