<J1:仙台1-1鳥栖>◇第8節◇28日◇ユアスタ

 勝利ではなくとも、思いは届いたはずだ。仙台がホームで鳥栖と引き分けた。前半にFKで先制を許したが、後半9分にFW赤嶺真吾(29)の今季初ゴールで追いついた。前日27日に手倉森誠監督(45)の母朝子さんが死去。タイトルを夢見ていた母のためにも、負けないサッカーで巻き返しを誓った。

 試合後、母について聞かれた指揮官は赤く腫れた目で意外な言葉を口にした。

 手倉森監督

 母が亡くなって不幸かもしれないが、震災で亡くなった方のことを思えば、見舞いに行けて、死に目にも会えて、お別れも言えた。幸せだと思う。

 朝子さんは27日の午前に亡くなった。享年76歳。がんだった。昨年末、手倉森監督は医師から「年を越せないかもしれない」と言われていた。オフは補強の陣頭指揮を執りながら、仙台と母の入院先である盛岡を往復する日々。その後も青森の実家で寝たきりになった母を、たびたび帰省して見舞っていた。26日には集中治療室に入ったと連絡があった。覚悟はしていた。

 今年一番勝ちたかったはずだ。試合前、選手たちには「勝って(母を)送り出してほしい」と頭を下げていた。しかし、終盤の決定機を決めきれず。MF角田が「悪くないのに、何で勝てへんのか分からん」とこぼしたように、今季を象徴するようなゲームだった。ただ、カウンターでピンチを迎えながらしのぎきった側面もある。昨季2位の原動力となったがむしゃらさ、粘り強さが徐々に戻ってきた。

 昨年、「優勝したらやめるつもり」と決意を明かすと、朝子さんは「人に夢を与え続けてほしい」と懇願したという。頻繁にスタジアムへ足を運び、見舞いに行ってもチームのことばかり聞きたがった大の仙台ファンだった。だから、あらためて誓う。「天国に成仏した母を思うよりも、ベガルタを優勝させたい一心でまい進していきたい」。【亀山泰宏】