ルイス・デ・ラ・フエンテ監督指揮下の初陣からはや1年、スペイン代表は着実な歩みを続けている。

昨年3月の新チーム始動後の通算成績は、12試合8勝2分け2敗(※PK戦で勝利した欧州ネーションズリーグ(NL)決勝クロアチア戦は引き分けにカウント)。その間、欧州NL初制覇および8大会連続、通算12回目の欧州選手権出場権獲得と、上々の成績を残している。

■好調なら即代表入り合計54人招集

前任者のルイス・エンリケ監督時代はバルセロナの選手が多数呼ばれ、選手選考に偏りがあった。また22年のワールドカップ(W杯)ではセンターフォワードをモラタ1人しか呼ばなかったことも影響し、攻撃のオプションがあまりなく得点力不足を露呈。2大会連続のPK戦での決勝トーナメント1回戦敗退という憂き目にあった。

その後を受け継いだデ・ラ・フエンテ監督はこれまで合計54人を招集し、48人を起用してきた。その間、例えば先月の代表戦でRソシエダードとビルバオのバスク勢から多数の選手を呼び、クバルシを初選出したことを見ても分かる通り、好調の選手を即座にメンバーに加え、“活躍すれば代表入りできる”と選手たちに大きな希望を与えてきた。またスペイン代表のアイデンティティーと言えるポゼッションサッカーの香りを残しつつ、前任者より攻撃的なサッカーを展開している。

ドイツ開催の欧州選手権まで3カ月を切る中、通算4度目の優勝を狙うスペインは、先月22日にロンドンでコロンビアと親善試合で対戦した。デ・ラ・フエンテ監督はテストマッチと位置付け、システムをいつもの4-3-3から4-2-3-1に変更。控え組と思われるメンバーで臨み、レミーロ、ビビアン、クバルシの3人をデビューさせたが0-1で敗れ、不安を残す結果となった。

■7万人集めたブラジル戦ドロー

その4日後、レアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウで開催されたブラジル戦は、チケットの最低価格が40ユーロ(約6400円)とそこまで安くないにもかかわらず、サッカー王国の来訪、普段ベルナベウをホームにしているビニシウスやロドリゴ、そして今夏Rマドリード入団が内定しているエンドリッキなどと対戦するとあり、完売だった。

気温が氷点下近くまで下がった雨模様の中、試合開始は21時30分で、終了が深夜0時近くにもかかわらず、多くの子ども連れが目立つ7万人もの観衆を集めた“フィエスタ(お祭り)”となった。

デ・ラ・フエンテ監督は大きな注目を集めたビッグマッチに向け、2試合連続の躓きを回避すべくスタメン10人を変更。本番を見据えたできる限りのベストメンバーで臨み、コロンビア戦と同じ4-2-3-1で戦った。

試合開始から主導権を握り、ボランチのロドリやトップ下のダニ・オルモを中心に攻撃を組み立て、サイドハーフのヤマルやニコ・ウィリアムズが得意のドリブルでブラジル守備陣を翻弄。最終的に両チーム合わせて3本のPKが与えられ、激しい点の取り合いの末に3-3で引き分けた。

多くのチャンスを生かせなかったことは気掛かりだが、スペインはボール支配率、シュート数ともにブラジルを上回っており、W杯時に比べれば、大きく改善されていると言えるだろう。

また、デ・ラ・フエンテ監督が試合後「我々はチームとしてはるかに優れていたので、勝てなかったことは腹立たしい」と話したように、内容的には十分に手応えを感じさせるものとなったようだ。

■登録23人は3月とほぼ同じか

欧州選手権初戦となる6月15日のクロアチア戦まで準備時間はわずかしかない。そのためスペインメディアはすでに大会メンバー23人の予想を行っているが、先月の代表戦とほとんど同じ顔ぶれになるとの見方が強くなっている。

そんな中、メンバー入りが確実視されているのは、GKではウナイ・シモン(ビルバオ)、ダビド・ラヤ(アーセナル)、レミーロ(レアル・ソシエダード)の3人。

DFでは右サイドバックのカルバハル(レアル・マドリード)、センターバックのル・ノルマン(レアル・ソシエダード)、ラポルテ(アル・ナスル)の3人。

そしてMFではボランチのロドリゴ(マンチェスター・シティー)、スビメンディ(レアル・ソシエダード)、インサイドハーフのミケル・メリーノ(レアル・ソシエダード)、ファビアン・ルイス(パリ・サンジェルマン)、トップ下やサイドでもプレーできるダニ・オルモ(ライプチヒ)の5人。

FWではウイングのヤマル(バルセロナ)、ニコ・ウィリアムズ(ビルバオ)、センターフォワードのモラタ(アトレチコ・マドリード)、ホセル(レアル・マドリード)、サイドもできるオヤルサバル(レアル・ソシエダード)の5人。

上記16人を除いた残り7枠のうち、4~5枠はDFが占めることになる。右サイドバックの残り1枠を、唯一のW杯王者である38歳のヘスス・ナバス(セビリア)とペドロ・ポロ(トットナム)、センターバックの1~2枠をビビアン(ビルバオ)、クバルシ(バルセロナ)、イニゴ・マルティネス(バルセロナ)、パウ・トーレス(アストン・ビラ)、ダビド・ガルシア(オサスナ)、そして左サイドバックの2枠をグリマルド(レバークーゼン)、ガヤ(バレンシア)、ククレジャ(チェルシー)が争うことになりそうだ。

■五輪考慮しヤマルとクバルシ選外も

その他、MFではガビ(バルセロナ)が負傷欠場を余儀なくされる一方、サンセット(ビルバオ)、バエナ(ビリャレアル)、アレイシュ・ガルシア(ジローナ)、マルク・ロカ(ベティス)、そして負傷中のペドリ(バルセロナ)がコンディション次第でメンバー入りの可能性がある。

そしてFWでは、サイドアタッカーのアセンシオ(パリ・サンジェルマン)、フェラン・トーレス(バルセロナ)、サラビア(ウルバーハンプトン)、センターフォワードのジェラール・モレノ(ビリャレアル)が候補に挙がっている。

しかし、デ・ラ・フエンテ監督がパリ五輪を考慮し、前回の欧州選手権と東京五輪参加で酷使したペドリと同じ轍を踏まないように、ヤマルやクバルシなどの若手選手をドイツに連れていかない可能性もあるようだ。

欧州選手権開幕まで3カ月を切るものの、シーズンが佳境に入り、すべての選手が所属クラブで多くのものを懸けて戦っている。そのためけがの恐れは大いにあるが、皆が万全の状態で本番を迎えられることを願いたい。【高橋智行通信員】(サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」/ニッカンスポーツコム)

スペインのPK獲得に反応するブラジルのビニシウス(左)(ロイター)
スペインのPK獲得に反応するブラジルのビニシウス(左)(ロイター)
ビニシウス(2022年12月9日撮影・PNP)
ビニシウス(2022年12月9日撮影・PNP)