さながら「宮市狂騒曲」だ。オランダのフェイエノールトに所属するFW宮市亮(18)が18日、ロンドン経由で帰国。保有権を持つアーセナルから取材規制がかかる中、宮市もクラブからの通達を順守し必要最低限の受け答えに終始した。およそ15分間、距離にして100メートル。笑みを絶やさずリラックスした表情だった。今冬海外でプロ人生をスタートさせた超新星は、来季に備えしばしの休息に入る。

 午前9時30分の成田空港第2ターミナル。定刻から30分ほど遅れて日本サッカー界の王子が到着ロビーに姿を現した。紺のポロシャツにデニムのラフな姿。注目選手の帰国に、一般人は誰も気付いている様子がない。迎えに来ていたスタッフとあいさつを交わし荷物を預けると、出口に向かって歩き出した。ここからおよそ15分間、前代未聞の光景が繰り広げられた。

 歩道を歩きながら女性リポーターが声を掛ける。宮市も笑顔で答える。しかし、立ち止まることはない。歩き続ける。ゆっくりゆっくり。丁寧にじっくり答えようとして一瞬止まりそうになったが、思い出したかのように再び足を踏み出した。1台のテレビカメラと十数人の大人たちを引き連れた大名行列が出来上がった。通行人は「何事か」といった顔で道を空けていた。

 海外で活躍する選手が帰国すれば、選手に立ち止まってもらい取材するのが通例。ところが、フェイエノールト、アーセナル両クラブから、国内外を問わず、宮市への一切の取材禁止令が発令された。立ち止まっての取材はもちろん、着席しての会見やインタビューもご法度。今回の帰国に関しても、アーセナルから通達が届いていた。

 背景には宮市への大きな期待が存在する。取材制限についてアーセナルからは「宮市はまだスター選手ではない」と説明されたという。主力として活躍する選手を除き、10代の選手はおしなべて取材対応に注文をつけている。ちやほやされて実力を発揮できず、表舞台から消え去った多くの選手を見てきている名門クラブならではの育成方針といえる。高卒の日本人の少年がこれだけの待遇を受けるという状況は特例中の特例。

 出迎えたスタッフも取材陣に重ね重ね注意を呼びかけていた。宮市も立ち止まらず、歩きながら投げかけられた質問に答えていた。今季を振り返り「持ち味の突破力は出せた」と話すも「突破にかかるまでの動きが課題」と目標に掲げていた。「もう少ししゃべれるようになりたい」と語学の習得も付け加えた。

 日本へたつ前に、アーセナルのベンゲル監督と言葉を交わしたという。「よくやったぞとポジティブな評価をもらいました」。今後は鳥取で短期の自主トレを予定。オフの間に来季の連絡が入る。アーセナルでのデビューも、そう遠い日ではなさそうだ。「疲れをとって来季は(得点を)2ケタ取りたい」。宮市はそう話すと、歩くペースを上げて車へ乗り込んだ。【加納慎也】