<岡田監督インタビューその3>

 横浜を率いてJ1を2連覇。日本代表監督として2度W杯に出場し、10年南アフリカ大会では決勝トーナメントにチームを導いた。そして岡田武史監督(56)は海を渡った。中国スーパーリーグ杭州緑城を指揮して1年。海の向こうから見た日本サッカーは、どのように映ったのか…。3回目は、アジア屈指の実力国となった日本サッカーに対し、岡田監督は今、何を思うのか-。

 日本代表監督から中国のクラブチームの監督へ-。今までにない新たな「進路」を取った岡田監督。杭州緑城で指揮を執っている最中は目の前の勝利を目指し、全力を尽くす。ただ、日本を忘れることはない。海を隔てたからこそ見えてくる日本サッカーがあった。

 岡田監督

 決して日本サッカーはアジアの中でずばぬけていないと感じた。これは日本にいては分からなかったことかもしれない。才能ある選手は中国にも山ほどいる。アジアでは日本が、すべてにおいて組織的に整備されていて才能的にも上かなと思っていたけど、決してそういうわけではないと。中国が強くなるにはまだ年数はかかるだろうけど、日本が今、足踏みしていたら、すぐに抜かれてしまうと思う。

 日本代表は11年1月のアジア杯で優勝。現在、戦っているW杯アジア最終予選も快調に勝利を積み重ねている。日本サッカーにとって、日本代表の充実が必要不可欠。その上で、日本が世界トップクラスと肩を並べるためのテーマとして、草木が地中に力強く根を張るような育成の重要性を挙げた。

 岡田監督

 代表に関してはある程度強化はできてるし、海外に選手が出て行っているなどの利点があるから結果は出ている。でも、これからはもっともっと育成が重要になる。中国にはまだまだサッカーにおけるグラスルーツ(草の根)がないけど、日本に本当のグラスルーツはあるのか、と。日本では難しいけど、街を見渡してみて、みんながボールを蹴っている光景はないでしょ。でも、これからはそれが当たり前の国に勝っていこうというわけだから。じゃあ、何が必要なのか。よりレベルの高い育成じゃないか、と。

 日本サッカーにとって物足りないと思うところも見えてきた。アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)で08年のG大阪以降、日本勢の決勝進出はなし。最近3年は4強進出すらない。

 岡田監督

 日本が世界で勝つためにはパスサッカー。それは俺もやっているし、悪いことじゃないけど、もう少し勝負というものを考えないといけないと思う。美しさのようなものを求めるのも必要だけど、試合に勝っていくというのはものすごく大事だと、中国で指揮を執って、あらためて感じた。最近は日本のクラブがACLで勝ててないし、もっともっと勝負に競り勝つことを考えないとなあという感じは受けた。戦術には1つのポリシーが必要不可欠だけど、その中で相手と自分の力を見て勝つためにどうするか。

 「彼を知り、己を知れば百戦して殆(あや)うからず」という孫子の兵法に記されている格言を例に挙げた。敵、味方の両者の情報を持ち、比較分析することができれば、何度戦っても敗れることはない-という意味だ。

 岡田監督

 孫子も絶対勝てるとは言ってないけど、W杯予選やW杯本大会で自分のサッカーをやり通して負けたらどうなのかと。代表は結果は大事だから、一概には言えないけど、ポリシーを持ちながら妥協する時は妥協していかなければいけない時がくると思う。だって勝ちたいんだろ。勝ち負けがなければスポーツではない。勝つためにベストを尽くす。ルールを守れば何をしてもいいかと言われれば、それは違う。ポリシーは必要。でも、ポリシーがあっても勝つためにやるんだから。勝つために何をすればいいかを考えるだけだから、そんなに難しいことではないんだよ。

 勝つために全力を尽くすのは当然のこと。ただ、中国で残留争いを経験すると同時に、勝利がチームをいかに成長させるかをあらためて感じたのかもしれない。岡田監督が日本サッカーを思うからこその、海を越えた「メッセージ」だった。(おわり)【取材・構成=菅家大輔】

 ○…フットサル日本代表としてW杯に出場したカズ。岡田監督は、45歳にしていまだ挑戦を続ける「KING」の戦う姿を称賛した。「選手も監督も、力だけでなく、それ以外の部分で評価されるのはつらい面がある。もしかすると、中には必要ないと思っている人もいるかもしれない。でも、カズはそれが分かっていて、でも『チームにプラスになるならいいじゃん』ってチャレンジできる。その姿勢、メンタリティー。それが素晴らしい」と話した。