日本スポーツ界に歴史的瞬間が訪れるか-。陸上の織田記念国際は今日29日、広島市のエディオンスタジアム広島(エディスタ)で行われる。注目は、男子100メートルで日本人初の9秒台が期待される桐生祥秀(18=東洋大1年)の走りだ。28日はリラックスムードで前日調整。日本随一の高速トラックで、満を持してジェット桐生を噴射させる。

 イメチェンした桐生が、室内調整を終え、報道陣の前に姿を現した。長く伸びた髪を切ったソフトモヒカンの髪形。「伸ばすのは冬でいいかなと、とりあえず切ってみました」。取材対応は「まだ慣れない」と言いながら、50人あまりの報道陣を前に、リラックスした柔和な笑みをもらした。

 日本歴代2位の10秒01の衝撃から丸1年。その後は10秒17がセカンドベストとタイムは伸びない。ただ世界選手権など経験を積んだことで、ひと回り成長して広島に戻ってきた。「やる気というかワクワクして楽しみ。早く明日になって試合に臨みたい。体もそうだけど、気持ち的に前向きなものが多いですね」。周囲が期待する「10秒の壁」突破にも「求めて狙うのでなく結果的についてくれば」と軽くいなすゆとりがある。

 歴史的瞬間に最高の舞台が待っている。09年3月に会場のエディスタのトラックが、15年ぶりに全天候型に改装された。以後、好記録が続出。4度の10秒0台が出て、男女100メートルの10傑中、各3度がエディスタで記録された。硬度が公認上限の60で施工され、選手からも「硬くて反発が強く感じる」と好評。この季節に吹く北風も、1・5メートル前後の追い風となり記録を後押しする。

 “ソフト”な外見だが、内に秘めた桐生の闘志は熱い。山県亮太(慶大4年)との昨年6月以来となる再戦にも「日本選手権では負けた。今回は勝って、ずっと勝ち続けたい。レースになれば先輩も後輩も関係なく1位になりたい」。予選と決勝の2本勝負。全国の目が広島に集まる。【渡辺佳彦】