<陸上:第48回織田幹雄記念国際陸上競技大会>◇29日◇広島市・エディオンスタジアム広島◇男子100メートルほか

 昨年から続く「桐生効果」が今年も継続される。桐生が棄権した男子100メートル決勝を、200メートルが“本職”の高瀬彗(25=富士通)が制した。日本歴代9位タイの10秒13で、山県亮太(慶大)らを抑えた。

 決勝の選手コールに、主役の名前がアナウンスされない。桐生の棄権で、ざわつく空気をつんざいたのは高瀬だった。予選で追い風参考の10秒14こそ出たが、何せ自己ベストは10秒23。そんな意外な伏兵が、力みのないスムーズな走りで山県らを置き去りにする。10秒09の速報値は後方修正されたものの、日本歴代9位タイの10秒1台に、会場もどよめいた。

 山県と並んで臨んだ記者会見。「主役」の座をものにしても普段から物静かな男は「力を抜いた最高のレースだったと思います」と喜びをかみしめた。精いっぱいの自己主張はタイム。「今季の目標は10秒1台だったので通過点。出て当たり前と思っている」と話した。悪癖は力みからの失速と自覚。練習では「力が抜ける感覚」の走りを心掛けた。一方で、冬季練習はパワー系のトレーニングを取り入れ、体作りに励んだ。「今まで走りの動きばかりに着目しすぎた」のを、楽に力を発揮できるよう意識を変えた。

 昨年の世界選手権では曲走路の3走を任された。5月の世界リレー選手権での代表選出も確実だ。「200でも今日のようなレースが出来たら記録はついてくる。楽しみです」。桐生効果は絶大。男子短距離陣が活況を呈してきた。【渡辺佳彦】