女子48キロ級の浅見八瑠奈(26=コマツ)が新旧女王対決を制し、世界選手権(8月、カザフスタン)代表を確実にした。決勝で昨年の世界選手権を制した近藤亜美(19)に優勢勝ちし、2年ぶり2度目の優勝を飾った。2年前の世界選手権で優勝を逃し、一時は引退も考えた。長期休養も挟みながらの復活。12年ロンドン大会で逃した五輪切符を来年のリオデジャネイロ大会でつかむため、大きな1歩を刻んだ。代表発表は今日5日に行われる。

 2月、ドイツでの一言が、浅見を突き動かしていた。「ロンドンの前の自分に帰ってごらん」。諭されたのは五輪2連覇を誇る谷本歩実コーチから。同地での国際大会で3位に敗れながら、悔しさが湧かなかった。「どういう柔道をすればいいか分からない」と打ち明けた。そして、ロンドン五輪を夢見てがむしゃらだったころを思い返した。この2カ月、昔の自分を追ってきた。

 この日の畳の上には、かつての軽快さが宿った。小刻みに足を動かし、チャンスを作る。1回戦、準決勝と危なげなく突破。決勝で近藤とまみえた。「私は挑戦者」。勢いある7歳下の世界女王。残り1分、「体が勝手に動いた」と目にも留まらぬ体落としで横ばいに倒して有効を奪取した。

 柔道が「分からない」までになった始まりは、2年前の世界選手権にある。ロンドン五輪を逃した悔しさを「3連覇」で晴らすはずが、銀メダル。目標を失い、家族には「やめようかな」と打ち明けた。現役続行は決めたが、心は燃えない。昨年1月に長期休養を決めた。

 3月の1カ月間はフランスでホームステイ。町道場での子供たちの姿に「強さではなく、楽しくやる」原点を感じ、新しい柔道観も養った。ただ、帰国後には迷いが生まれた。「新しい自分と、昔の自分がいる」。初体験を重ねた分、目指す柔道が「分からない」。それがドイツでの態度に出ていた。

 谷本コーチの助言には続きがある。「昔の自分に戻った後に、新しい自分をプラスアルファすれば、リオを目指す自分ができる」。昔の自分を追い、1つの結果を得た。これから、休養などで培った経験が本当の意味で血肉となる。「あとは自分を信じて進むだけです」。12日が27歳の誕生日。「もうベテラン」と照れ笑いする姿は、いつもの明るさに満ちていた。【阿部健吾】

 ◆浅見八瑠奈(あさみ・はるな)1988年(昭63)4月12日、愛媛県伊予市生まれ。3歳から伊予柔道会で柔道を始める。新田高-山梨学院大-コマツ。10、11年世界選手権2連覇。得意技は背負い投げ。右組み。家族は両親と姉、弟。153センチ。