男子フリーが行われ、ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(20=ANA)は192・31点で1位だった。冒頭の4回転サルコーを成功させると、以降はミスをわずかにとどめた。前日のショートプログラム(SP)に続く1位で、2大会ぶりの優勝を目指すチームに貢献した。無良崇人(24)は3位。日本は順位点の合計で79点の2位につけ、女子フリーなどがある今日の最終日で逆転を狙う。

 今季の氷上最後の言葉は「ありがとう」だった。羽生は演技を終えると、天を仰いで3秒間まぶたを閉じ、感謝を口にした。「応援してくださった皆さん、チームのみんなに」。激動のシーズンの6戦目、満員の会場総立ちの拍手を受け、優しくほほ笑んでいた。

 冒頭の4回転サルコー。完璧な着氷をみせた。続く4回転トーループは「左脚を引くタイミングがずれてしまった」と3回転になったが、演技の流れはスムーズ。跳びすぎ違反を回避するために、3回転トーループだった後半の連続ジャンプを2回転にする冷静さもみせる。「サルコーを決めたので、うれしい気持ち半分、悔しい気持ち半分」と振り返ったが、得点を待つ間には、フリーの曲「オペラ座の怪人」の主人公ファントムの仮面を手にしておどけるなど、笑顔は絶えなかった。

 「実績からも期待される」。大会前には国を背負う気概をみせたが、いまや「期待」は国内にとどまらない。ファンから届く手紙やグッズは世界から。中国、ロシア、米国と週に段ボール10箱分にもなる。上海開催だった先月の世界選手権では、中国女性ファンが殺到。今大会も羽生目当てで中国メディアから取材申請があった。

 さらに、期待はファンだけではない。世界選手権では、氷上の表彰式で国際連盟のチンクワンタ会長から今大会の出場を期待する言葉があったという。すでに参加意思はあったが、会長自らが出場可否を気にしていた。影響力について本人は「あまり考えてない」と話すが、その視野の広さは十分。演技後の「ありがとう」には「ここの国立競技場が新しくなる前最後のスケートの国際大会なんじゃないかな」という意図もあった。自分の戦いを超えた域への配慮をみせていた。

 昨年11月の中国杯での激突事故、年末の腹部の手術、そして1月には古傷の右足首の捻挫と、万全で戦えた試合は少なかった。その中でも「完璧じゃなくても、ベターに持っていける」経験値は収穫となった。それを糧にするのは来季。「また課題を1つ1つクリアして、見る度にうまくなったって、ジャンプが決まらなくても、練習してきた分だけうまくなったなって、ちょっとずつでも思えるようなスケートをしていきたい」。また、強くなってみせる。【阿部健吾】